「ススキノ探偵」は20年近くも前に発表された作品で、シリーズものになっている。
しかし、今回映画化されるまで、あまり日の当たらない作品だった。
なぜか。
少し崩した感じの主人公設定。コミカルともいえる描写。読み易い文章。
そこで損をしていたのだ。

ちょうど20年ほど前、原遼という怪物的な作家がでて、いわゆるハードボイルド界を席巻していた。
チャンドラーに傾倒した作者が描く「探偵沢崎」の硬派な生き方と文章。
そちらのカゲに隠れてしまってた、ということらしい。

わかりやすく例えると、ジャッキー・チェンが体を張ってどんなすごいアクションをしても

「コミカル・カンフー映画」と言われちゃう、みたいな。

で、それが今回の映画化で掘り出されたわけです。
読み応えのある(しかも読み易い)、いい小説です。

『探偵はバーにいる』は、蒸発した女子大生を追っていくうちに巻き込まれる事件。
『バーにかかってきた電話』は、事件のすべてを知っている謎の女は?というお話。こちらが映画の原作です。

ポーカーゲームと大麻栽培を収入に、毎日飲んだくれて暮らす主人公。
アウトローの生き方をしているくせに非情になれず、なにかと他人の世話を焼く。
不条理や悲しみは、自分の胸の内にじっと閉じ込める。
「やられた分は、10倍にして返してやる」
これこそ、ハードボイルド=やせ我慢の美学というもの。

以下は本文より、引用。

あの時の、微かに漂う朝霧の湿った臭いが鼻の奥に蘇るのを感じながら、俺は桐原の面をじっと眺めた。
……痛い目にあったって、痛いだけだ。体を痛められたとしても、体が痛むだけだ。殺されたとしても、死ぬだけだ。どんな人間も、俺を損なうことはできない。カスになにができるってんだ。俺は平気だよ、クソヤクザ!
(『探偵はバーにいる』より)

しかし、どんな下等な人間にも真心はある。その人間なりにふさわしい形で外に出ようとする。そんなことを俺は考えた。
(『バーにかかってきた電話』より)

さて、蛇足ですがもうひとネタ。

本の装丁についてね。こちらが現在の装丁です。
もう完全に「原遼」チックな感じ。ハードボイルド色を全面に押し出しています。

それと比較してこっちが昔の装丁。
「ユーモアミステリ」みたいな匂いがあるよね。
ほんわかムードで、時計台って(笑)
しっかりハードボイルドに分類し切れなかったみたい。
どう売り出せばいいのか、迷ったんでしょう。
「中身はいいのに、売れないんだよなあ」という編集者のツブヤキが聞こえてきそうです。

ホント、売れてよかったね。

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