e0797971d059fa3cda8da11bb40f358e_s「目に見えない価値」が、見えないカタチで二進法の海を流通する時代。

 

「・・・それにしても、ネットは広大だわ。

 もうすでに、私たちの知らない次の社会が、生まれ始めている」

                           草薙素子

 
 

世界中の人々が、脳内に埋め込んだ通信デバイスによってつながった世界。身体器官の一部やすべてがサイボーグ化できる時代。そんな時代にあって己自身の身体が脳と脊髄だけになったとき、一人の人間としてのアイデンティティはどこに存在しているのか、という問いかけを、生身の人間やアンドロイド、サイボーグやAIたちとの対峙の中で描く近未来SF「攻殻機動隊」。その主人公である草薙素子が、広大なネットの海について語る時のセリフの引用である。

 

この物語が生まれたのは25年前ですが、あれよあれよと言う間にネット社会がやってきて、今や時代はこの作品の世界に追いつけ追い越せの状態になりつつあります。端末はウェアラブルになり、手から離れた端末は、やがて、頭ん中に埋め込まれる「電脳化の時代」が、すぐにでもやってくるかもしれません。

 
 

それはさておき、そんなIT技術の進化が、あらゆる産業の構造を変化させていく中、その波は、今や金融業界にも押し寄せて来ています。

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「カネ+IT」

 

ファイナンスとITテクノロジーが手を結んだ技術革新「フィンテック」によって、新たな金融時代が切り開かれようとしているからなのです。

 
 
 

「フィンテック」を駆使した「ネオバンク」が金融の未来を変える!

 

週間ダイヤモンド2015年9月19日号の特集記事の中に、スペインの大手銀行BBVAのフランシスコ・ゴンザレス会長の、こんな言葉が掲載されていました。


「金融サービスのデジタル革命で世界の銀行の大半は取り残されるだろう」

 

「フィンテック」とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた米国発の造語。金融とITの融合によって、スマートフォンやビッグデータ、人工知能(AI)などを駆使した便利で新しい金融サービスを生み出していく動きの総称でもあります。

 

「フィンテック」の本場、米国では、シリコンバレーを拠点とするペイパル社が、電子メールとインターネットを駆使したカード決済のサービスを提供する傍らで、借り手の信用リスクを自動的に審査するシステムを開発しました。5791dda8af49ddcce6c1d85483f8a781_s

誰が、いつ、どこで、どんなモノを購入し、決済は滞りなく行われているか。それら膨大な決済データを基に、デフォルトリスクなど中小企業の信用力が算出される。

 

しかし、ペイパル社は銀行免許を持っていないため、融資は提携先であるウェブバンクが実行するという仕組みをとっている。

 

かつて、人の手で行われていた与信審査は、今や機械に取って代わられようとしているのです。

しかも、それが、目に見えない“二進法の海”の中で行われているとなると・・・。

 

まさに、「私たちの知らない次の社会」が生まれはじめているといっても過言ではありません。

 

米国におけるフィンテック関連業界は、ここ数年、加速度的に発展しており、2014年度のフィンテックベンチャーへの投資は、前年の40.5億ドルから3倍以上の122億ドルにものぼります。

 

フィンテックの主な事業領域は

(1)決済サービス、(2)会計サービス、(3)銀行系サービス、(4)家計・資産管理サービス等。

フィンテック

 

特に、銀行系サービスの分野での算入は顕著で、多くのフィンテックベンチャー企業が、銀行の主力ビジネス領域に次々と進出してきています。

 

預金の概念を変えたと言われるシンプル社が、日々の銀行取引に写真やタグ付け管理を可能にする「楽しさ」を加えたユニークなオンラインバンキングの仕組みを開発したり、ソーシャルメディアを活用して積立預金を可能にしたスマーティピッグ社、クラウドファンディングで融資仲介を手がけるレンディングクラブや、ビッグデータを活用したスピード審査で特許を持ち、新たな審査モデルを確立したキャベッジ社など、枚挙に暇がありません。

 

これら「ネオバンク」と呼ばれる存在が、これまでの金融の概念やビジネスモデルを変えていこうとしているのです。

 
 

日本は周回遅れで、ようやくスタート。

 

低金利時代に突入。利息収入による収益減少。生産人口減少による働き手不足。地銀や信金・信組の生き残りをかけた再編。さまざまな問題を抱える日本の銀行業界ですが、技術革新の波は、そんな日本にも容赦なく襲いかかってきます。

 

世界中の金融の仕組みが変わろうとしている中で、日本の金融業界も、ただただ黙って見ているわけにはかなくなってきました。

 

しかしながら、日本は銀行法による参入規制が厳しく、また、投資の規模も50億円程度にとどまっており、諸外国に比べてこの分野では、かなり遅れをとっています。

諸外国の一連の動きをうけて、日本の銀行界も、ようやく「フィンテック」の分野に注視し、本腰を入れ始めました。

 

金融庁は、銀行が電子商取引やスマートフォン決済などのサービス事業が運営できるよう、17年ぶりに銀行規制を緩和し、持ち株会社の傘下での新事業を可能にするように動き出しています。

 

また、メガバンクを中心に邦銀でもフィンテックの普及に向けた活動が活発化してきています。

 

とりわけ、日本でスタートしているフィンテック事業では、スマホをクレジットカード決済の端末に使用するサービスが「楽天」などで導入されています。マネーツリー

 

金融機関と提携することでクレジットカードやキャッシュカードの使用履歴を提供するサービスの「マネーツリー」や「マネーフォワード」は、最近では個人資産管理のアプリでも話題になっています。マネーフォワード

 

先出の「マネーフォワード」や「Freee」は、クラウド型会計ソフトを通じて、中小企業支援や様々な会計サービスを提供する事業を展開しています。

 

また、フィンテック関連のベンチャー企業同士が、交流や連携・提携強化、規制が未整備の状況下での発言力の強化を目的に、業界団体を設立すべく動き出すというニュースも出ています。

 

新たに到来したビジネスチャンスに、にわかに勢いづきはじめた日本のフィンテックビジネス。

 

こうして見ると、「ああ、あれがフィンテックなのか」「あの会社がやっている事業はフィンテックなのね」というように、既に、我々の身近に存在していることがよくわかります。

そして、知らず知らずのうちに「フィンテック」のテクノロジーを利用しているということにも気づくはずです。

 
 

Do Moneylender Dreams Electronic cash? (金貸しは電子貨幣の夢を見るか?)
                              ~金貸したちの未来予想図~ 

 

対面で人となりを見極める。丹念に聞き取りをする。貸していいものかダメなのか。貸せそうもない人に、如何にすれば貸し出すことができるか。多くの金貸しが与信の壁にぶち当たりつつも、その手腕を奮っていた時代は過去の遺物となり、めんどうな書類のやりとりも、手垢にまみれた紙幣のやり取りも一切必要のない、0と1の二進数だけで完結してしまう世界。

ITベンチャー企業が主導でお金をバンバン貸し出しています! みたいな時代がやって来ることも想像できしまう。

 

ならば、「金貸し」という職業は無くなってしまうのでしょうか。

いや、どんなに正確な情報があっても、どんなに与信の精度があがっても、相手は“人間”なのです。お金がからむ以上、ヒューマンエラーは避けられないのではないでしょうか。

だとすれば、ヒューマンエラーに対抗するには、やはり、同じ人間の力が必要になると考えるのです。

 

機械にお金を貸すことはできても、滞納して追い詰められた債務者をなだめすかしたり、夜逃げした債務者を追っかけたりすることまではできないのではないでしょうか。いや、技術革新が進めば、それも可能になるかもしれないので、決して「できない」と断言はできませんが、たとえ崇高なAIによって金融の世界が回っていくとしても、人間の情念が渦巻く泥臭い世界に踏み込むべきは、やはり生身の人間。そこは、広大なネットの海とは違い、暗くて深い闇が広がる海。人が行うべき仕事として残された最後の“聖域”なのかもしれません。

 

はたして、技術の変革に踊らされる金貸したちは、これからどんな未来予想図を夢見ることになるのでしょうか。

 

監査業務第1課 加藤 智弘

  
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