すべては、たった一つのひらめきから。

 

これも世の貯め、人の貯め。町ぐるみで千両(現在の価値に換算すると

約3億円)集めて、ビンボーから脱出だ!

 

ポスターのビジュアルや宣伝文句を見ていると、映画「殿、利息でござ

る!」は、お笑い満載の金融コメディなのか? と思っていたのですが、

意外や意外。かなり真面目な「地方再生事業」のお話じゃないですか。

 

むしろ、お笑い要素は控えめで、ピンポイントに挿入された笑いが、

堅苦しくなりそうな物語に隠し味として効いていて、 なかなか興味深いお話でした。

 
 

江戸時代中期。

仙台藩の宿場町・吉岡宿は、訪れる旅人の減少による商売不振。

それにのしかかってくるお上からの重税に、夜逃げするものや破産するものが続出していた。

 

さびれる一方の宿場町。おまけに、吉岡宿は、お上の物資を宿場町から宿場町へと運ぶ「伝馬役」を負っ

ており、本来ならは藩から助成金がもらえるところが、直轄領でない吉岡宿はその恩恵にあずかれず、

「伝馬役」の経費は自分たちの自腹という、さらなる苦役を強いられていた。

 

このままでは、町は消えてなくなってしまう。町を救う方法はないか。

誰もが絶望に打ちひしがれていた時、町で一番の知恵者が、思いもよらぬ秘策を思いついた。

 
 

「藩にお金を貸し付けて、そこから利息をもらえばいいじゃないか」

 
 

皆でお金を出し合って、お上にお金を貸し付けて、その金利を宿場町に落としてもらえば、伝馬の経費も

まかなえる。人々の暮らしも変わる。

 

実は藩の財政も、何かと物入りで、それほど余裕がなかった時代である。

 

最初は誰もが耳を疑ったアイデアだったが、そこに勝機があると確信した商人たち。

計画がお上に知れ渡ってしまえば、打ち首は必至という命がけのリスクを背負いながら、知力と財力を

尽くした商人たちの闘いが始まった。

 
 

お金が人の心を動かすのではない。人の心がお金を動かす。

 

「銭と頭は使いよう」とはよく言ったもので、250年もの昔に、今でいうところの投資ファンドみたいな

発想をする人たちがいたのですね。名付けて「吉岡宿マネー」と言ったところでしょうか。

 

しかし、銭と頭だけでは成し遂げられないこともあります。

己のひとり勝ちだけを考えていてもダメ。地位や名声を求めてもダメ。

 

「慎みの掟」というルールを己たちに課し、決して私利私欲に走ることなく、町ぐるみの創生を願い続け

た善意の気持ちが、町の人々の心を動かしていきます。

そして、町全体が一丸となって金策に取り組んだ結果、思わぬ奇跡がおきるのです。

 

町の人々の暮らしぶりは向上したのはもちろん、町の人々たちの血と涙と汗の結晶には、利息以上の思わ

ぬ付加価値が付き、宿場町は今まで以上の活気を取り戻し、長きに渡って繁盛したと伝わっています。

 

善意の資金がもたらしたものは、単に金銭換算できる「利息」だけではなかったのです。

 

目先の利益を追う事も大事かもしれません。

 

時にお金は人の視野を狭くしてしまいます。

 

「金利だけで儲けてやろう」などと姑息な考えで動いていたら、将来にわたる「儲け」を逃していたかも

しれません。

 

お金を持っているものが、お金のないところにお金を出してお金を得る。

まるで「お金がお金を集める」ような、現代の金融ビジネスのやりかたを否定するつもりはありません。

 

IT技術の進歩やグローバリズム。市場の広がりと競争激化の潮流の中では、キレイ事だけでは済まない

のも事実。無いよりも、持っているほうが断然強い。

現金な世の中ですよ。世知辛い世の中ですよ。全く。

 
 

しかし、そんな時代だからこそ、250年もの昔に、小さな小さな町の人々が、大きな大きな権力に対して

挑んでいった「無私の心」の声に、ほんの少し、耳を傾けてみてもいいのではないでしょうか。

 

監査業務第1課 加藤 智弘

  
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