監査業務第一課の加藤 智弘です。

 

茶屋町界隈に夜の帳が降り始める頃、

一つの舞台が幕を開けようとしていた。

 

~ ミュージカル「エリザベート」 ~

 

ハプスブルグ家最後の皇后であるエリザ

ベートと、黄泉の国の帝王“トート=死”との禁断の愛を綴った壮大な物語は、世界中で20年以上も演じ続

けられている名作。

 

image1-2黄昏の中に集いしソワレ公演を待ちわびる人々。

観劇仲間と賑やかにおしゃべりしながら歩く女性たち。

仕事帰りのサラリーマンやOLの姿もちらほらと。これから幕を開ける物

語に心躍らせながら歩くその足取りは「梅田芸術劇場」の入り口へと誘わ

れていく。そんな人々の群れに紛れた私も、フレッド・アステアよろしく

軽やかなステップで…、とはいかないが、人々の合間を縫いつつ、足早に

劇場へと滑り込む。

 

場内は、外とは比べ物にならないほどの熱気につつまれていた。

客席通路を進み、舞台下手側の二階ボックス席へ。厳密にはボックス席ではなく、舞台を斜め上から見下

ろすような視界で、舞台下手側が切れてしまう見切れ席。しかし、少し前傾すれば、何とかステージ全体

を見渡せる。決して良い席とは言えないのだが、舞台までの距離も比較的に近く、おまけに、舞台エプロ

ン前のオーケストラピットの演奏者の姿まで良く見えるという、裏方マニアにとっては垂涎の鑑賞ポイン

トだ。もっとも、そういうバックステージのものがチラリとでも見えるのを好まない方もいらっしゃるの

で、これはあくまでも個人的な嗜好の問題でもあるのだが…。私にとっては、なかなかに面白い状況での

観劇であったことは間違いない。

 

そして、今宵の最大の目的は、ミュージカル界・演劇界で活躍する若手俳優、井上芳雄さんと山崎育三郎

さんの姿を生で観ること。ミュージカル界の三大プリンスと称される三人(井上芳雄、浦井健治、山崎育三

郎)が結成する「StarS」という音楽ユニット。 その存在を知る人は、私の周

りでも意外と少ない。ウィキペディアで調べても、多くの情報は出てこない。

何を隠そう、最近のテレビドラマでも、彼らの姿を垣間見ることができるの

だが、その存在に気づく人は、私の周りでも決して多くはない。

例外的に言えば、「下町ロケット」の真野賢作役でその名を馳せた、山崎育三

郎さんぐらいだろうか。その育三郎さんでさえも、「レ・ミゼラブル」のマリ

ウス役の人ですよ、と言うと、誰もが「???」となるのだから。

しかし、ミュージカル界・演劇界では、その存在を知らぬものは居ないと言われるほどの、注目の若手

ミュージカル俳優たちなのである。その、三大プリンスのうちの二人が共演する贅沢なステージ。

面白くない訳がないのである。


幕開けとともに、山崎育三郎さん演じる狂言回しのルキーニが登場。

アンサンブルの中に紛れていても、キレ味の良い身のこなしは一際目を

引き、軽快に踊り唄いながら、観客を次々と魅了していく。シニカルで

毒のある役回りだが、時折、コミカルな一面を見せつつ、客席の笑いを

誘う。それでいて、控えめな演技との合わせ技で、狂言回しであるとい

う役どころを見事に演じきっている。さすがはミュージカル界のプリン

ス。と思わず唸る。

 

華麗なるダンスとミュージカルナンバーに彩られながらも、物語には“死”の影がつきまとう。

その影の具象こそが、この物語のもうひとりの主人公。幼きエリザベートを死の虜にしてしまう“黄泉の国

の帝王”こと、トートである。漆黒の翼を身にまとい、舞台上空の暗闇から降臨する帝王。演じているの

は、井上芳雄さんである。甘い歌声で高らかに謳い上げられる闇のミュージカルナンバー。その声量は劇

場中を震わせ、観客の魂にまで揺さぶりをかけてくる。彼のしなやかな身のこなしの美しさは、それを目

にするすべてのものを惑わせ、冥府の深淵へと誘っていく。まさに、闇の帝王にふさわしいキャスティン

グだ。“死”に魅せられしエリザベート。黄泉の帝王に捧げられしその愛は、家族はもとより、国民をも巻

き込み、やがて、自らの国までをも破滅へと導いていく。

 

暗く、悲しいストーリー展開であるにもかかわらず、観客はClap&Stomp(手拍子足拍子)を刻みなが

ら、物語の世界へと入り込んでいく。オケピの中を見下ろせば、舞台上の役者の演技と指揮者のタクト

の動きが見事にシンクロしているのがわかる。客席と舞台との間を、ひとつの世界につなぎとめている

のが、オケピの人々が奏でる楽曲なのだ。役者も奏者も指揮者も観客も、ボルテージが最高潮に達した

時、第一幕が終了。

 

しかし、幕間をはさんでも尚、その興奮は覚めることはない。やがてそれは、劇場中の空気をガラリと変

えていく。役者、観客、オーケストラ。そこにいる人々が一つになる瞬間。すべての人が「エリザベート

」の物語にいる世界。劇場中が一体感につつまれ、その一つになった世界を引き連れて、悲劇のヒロイン

と闇のヒールの物語は、悲しき結末へ向かって、さらなる高みへと上り詰めていく。

 

劇終。

割れんばかりの拍手は鳴り止むことがなく、お約束の「いつまでも続く

よ、カーテンコール」に突入。生で聴くミュージカル界のプリンスの歌

声と、その男前っぷりを堪能した後の余韻に浸りながら、何度も何度も

客席に向かって感謝の気持ちを投げてくれる役者陣に「ブラボー!」の

拍手を返す。

 

ああ、この感動。この一体感。いつまでもこの空間に浸っていたい。

それは、観客だけでなく、役者たちも同じに違いない。名残はつきないものの、最後は、客席全員のスタ

ンディングオベーションで、めでたくお開きとなるのであった。

 

監査業務第1課 加藤 智弘

  
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