監査業務第一課の加藤です。

「お金が出来たら返しますから…」

某消費者金融で債権回収業務をしていたときの話。「とにかくお金ができるまで待ってください」という、かなり無理なお願いをされることが、しばしばありました。

「ちょっと待ってくださいお客さん。具体的な返済の目処もなく、両手離しで待てるわけないでしょ」と返すそのはなから、電話を一方的に切られて話を打ち切られてしまう。

 

かけ直せば良いとは言うものの、一日に何度も督促架電をするのは、貸金規制法やら社内の督促規定やら何やらに抵触する恐れがあるから、おいそれとかけ直すわけにもいかず、そうこうしているうちに、いつしか連絡が取れなくなり、不良債権と化し、債権は貸倒償却。貸したお金は、闇の深淵へと沈んでいってしまう。

 

「ある時払い」のお願いほど、お金を貸している側にとって、頭の痛い債権はないのである。

 

 

誰のための「事業計画」なのか?

 

今のお話は、私が以前勤めていた消費者金融でのお話ですが、消費者金融の債務者相手であろうとも、「ある時払い」が通用することはあり得ません。ましてや、ビジネスの現場ともなると。

 

「事業がうまくいってませんので、返済ができません。なのでお金ができるまで待って下さい」

 

さて、これだけで融資している金融機関は納得するでしょうか。当然ながら納得しないでしょう。

 

リスケや利息の支払いだけに応じてもらうなど、
返済猶予を申し出る時のマナーとして、最低限でも試算表は準備すべきです。

そこで、これまでの事業の推移を明確にし、今後、どのように返済していくかなどを含めた事業計画を立てた資料を作成しておきましょう。

そこで初めて、交渉の土俵に立つことになります。

 

そして、単に事業計画をつくるというだけではいけません。作成した計画書に基づく事業の方向性や将来性、資金繰りや返済計画等を、金融機関に対して、具体的に、的確に説明できなければいけません。

 

「数字のことはよくわからないから、数字に詳しいお宅の方で事業計画作っておいてよ」と会計事務所に丸投げしたり、自社の経営コンサルを請負っているところが作成した計画書だから作成された事業計画書に対する説明が全くできないというのはナンセンスな話。

 


確かに私たち会計事務所の人間は数字のことに関しては詳しいですが、経営者ではありません。自社のことは経営者が一番良く知っているのですから、計画作成の陣頭指揮はやはり「経営者」がとるべきものです。主役は「社長」であって、私たちは、それをサポートする脇役でなのですから。

 

決して、上手く説明しようとか思う必要はありません。自分の言葉で、きちんと自分の信念を伝えることができれば充分なのです。

 

 

事業計画は「手段」であって「目的」ではない。

 

銀行交渉の場においての事業計画や経営計画は重要です。
しかし、計画を立てること自体が目的になっていないでしょうか。

 

「銀行に提出しないといけないから」とか「銀行から出すように言われたから」といった理由で事業計画を慌てて作成する状況に出くわすことがしばしばありますが、本来の事業計画とは「会社経営の羅針盤」であって、銀行へ持参するのは、「交渉」の一手段としてであります。

「金融機関側の顔色を伺いながら事業計画をつくる」ことも、あながち間違いではないのでしょう。しかし、作成することが「目的」になってしまってはいけないのです。

 

自分の言葉で きちんと自分の信念を伝えるために考えるべきは「何のために経営計画を作るのか」です。

それは、「選択と集中」です。

大企業のように、大きな資本力でもって「人・モノ・カネ・情報」などのあらゆる資源をフルに活用できる余裕が中小企業にもあればいいのですが、中小企業の場合、少ない資本で事業を営んでいるところも多く、事業に使える経営資源にも限界があります。

少ない資本の中で、いかにやり繰りを考え、どの経営資源に特化してそれを集中させるのか。

自社が優れている部分を分析し、「人・モノ・カネ・情報」の持てるすべての経営資源から競争優位の源泉を掴み、それらを最適配分させた、競争に打ち勝つための戦略を立案する。

それを実行するための羅針盤こそが事業計画なのです。決して数字だけで終わる話ではないのです。

ですから、「事業計画」をたてるには、核となる、強い“信念”が必要になってくるのです。

 

事業再生の場面であろうと、成長戦略の策定場面であろうと、決して後ろ向きにならず、前向きな発想で考えていくことが大切なのではないでしょうか。

  
コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください


Copyright(c) 2024 FARM Consulting Group All Rights Reserved.