梅雨明けとともに真夏日となった7月某日。前回の「伊勢湾うたせ真鯛」でのグロッキー体験が未だトラウマになっていたにもかかわらず、私は、S社のK社長の甘い誘いに乗せられて、夏の日本海にやってきていた。獲物はアジとスルメイカ。しかも、漁火に誘われてやってくる遊魚たちが繰り広げる天然ショーが見れるというおまけ付き。

「おっ、すっかり一人前のアングラーらしくなったねぇ」

前回、互いにビギナー同士だという事で仲良くなったO氏。再会の固い握手を交わしたのもつかの間、早速、私をおだて始めた。特別な格好をしていた訳ではない。人を乗せるのがうまい。しかし、私もタダでは乗せられない。負けじと言葉を返す。

「今日も負ける気がしませんよ!」ビギナー同士の、熱い闘いの火蓋が切って落とされた。

午後12時、乗船。これから丸半日、日本海洋上で過ごす。一抹の不安が脳裏をよぎるが、いよいよ私は覚悟を決めて、酔い止めカプセルを一気に飲み下した。

そんな不安をよそに、洋上は池のようなベタ凪だった。これから日没までの間、サビキでアジを狙う。子供の頃にやった堤防釣りのサビキは入れ食いだった記憶しかない。だから、沖ならもっと釣れるだろう。しかし、そんな淡い期待は一気に吹き飛ばされた。思ったほど釣れない。気持ちとは裏腹に、テクニックが追いついていないからだ。ボウズは免れたものの、昼の部の釣果はウマヅラハギ一匹。O氏は、みごとに大きなアジをヒットさせていた。

ライバルに差をつけられた感満載で、夜のイカ釣りを迎える。 “スッテ”と呼ばれる疑似餌にイカを乗せて釣る。針に返しがないため、うまく引き上げないとイカがはずれてしまう。また、イカのいる深さを探りながらアタリをとらなければならない。非常に難しいテクニックを要求される。ひたすら、落としては上げるの繰り返し。しかし、なかなかアタリがつかめない。

漁火が灯る頃、船のあちこちでイカが上がり出した。それを見た私の中で闘争心が燃え上がる。水面下に意識を集中。いったいどれほどの時間が過ぎたのだろう。何度も落とすうちに、ようやく、アタリらしきものがつかめてきた。一気にリールを巻き上げる。10mぐらいまであがってきたところから、電動を手動に切り替える。

「キタッ!」

浮上するスッテの先に白い軟体動物の姿。スルメが乗っている! バレないように、慎重に糸を手繰り寄せる。海面に出たスルメの口から、海水が勢いよく吐き出された。生きたイカを初めて釣った。興奮冷めやらぬ私は次なる獲物を狙って、仕掛けを落としていく。

結局、釣果は、スルメイカ二杯で終わった。難易度の高い釣りテクニックに少し気持ちが萎えたのも正直なところ。昼間、調子が良かったO氏も、イカには苦戦した様子だった。

「イカ釣れたね。おめでとう」O氏が声をかけてくれた。額面通りその言葉を受け取る。まずまずの結果に終わったものの、互いに見合う目には、次なるステージへの闘志がみなぎっていた。

 

一週間後。台風6号が西日本に襲来する中、私は1通のメールを受け取った。

「日本海に行きませんか! マイカをやっつけに・・・」

一部門 : 加 藤 史 也

  
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