平成の徳政令『中小企業金融円滑化法』の再延長は、単なる延命措置か、それとも最後のチャンスか。
ファイナンシャルプランナーであり、弊事務所専属の金融コンサルタントでもある加藤が、分かりやすく解説いたします。
(五回完結)

第一回:中小企業金融円滑化法が市場にもたらしたもの

H24年3月末で期限切れを迎えるはずだった「中小企業金融円滑化法」が、また一年延長されましたね。 「平成の徳政令」と揶揄されながらも、実際には多くの中小企業の社長さんたちの“頼みの綱”になってきました。年の瀬の迫る中、「延長する!」「されない!」「されなかったらどうなるの?」と、私の周りはとても穏やかではありませんでした。結局、その“穏やかでないムード”は杞憂に終わり、まずはホッと胸をなでおろしたところです。

 とは言うものの、今回の延長は賛否両論ありました。行政・金融機関・企業。関係機関ごとに反応はそれぞれ違います。それぞれの立場での思惑が複雑に絡みあう中での延長突入。もしかしたら“頼みの綱”は、本当に最後の“頼みの綱”になるのかも知れません。ホッとしたのもつかの間。先の事を考えると、心中穏やかではなくなってきました。では、なぜ、賛否両論の中、政府は「三度目の正直」ならぬ「二度目の正直」の延長に踏み切ったのでしょうか。そのあたりの事情を、これから、少しずつ紐解いていきましょう。
 

 まず、これまでの二年間で、円滑化法はどのような効果をもたらしてきたでしょうか。法施行前は6万件にも満たなかった貸付条件変更等(リスケジュール)の実行件数が、H23年9月末現在で、約229万件(金融庁発表資料より)にまで達しました。2年で約40倍です。景気は一向に上向かない。業績は低迷する。資金繰りも安定せず。借入金は返しても返しても減らない。悩みの尽きない、町の社長さんには朗報だったかも知れません。“藁をもすがる思い”で、この“頼みの綱”を握った社長さんが、思いの外たくさんいた訳です。
 

 もちろん、申し出を受けた金融機関も、無下に断るわけには行きません。特に、私達のような会計顧問やコンサルタントが同行すれば尚のこと。最初のうちは支店長室に案内されて、担当者とその上司が登場する、という場面にも出くわしましたが、二年目以降はそれもなくなり、書類一枚提出して、あとは契約の巻き直しで完了。という具合でした。今や、申し出に対する実行率も9割を超えており、その取り組みがようやく定着してきたように感じられます。


 その効果が顕著に表れているといえるのが、2010年以降の倒産件数の推移。帝国データバンク(以下TDB)の倒産集計では、2010年は前年比12.4%の減少。2005年以降、年々増加し続ける倒産件数が、5年ぶりに減少。増加がストップしました。続く2011年も、前年比2.5%減少。倒産件数増加傾向に歯止めがかかったのです。
 

 これが「金融円滑化法」の力なのでしょうか。ただ、この時期はリーマンショック以降、市場が落ち着きを取り戻し始めた時期でもあります。ですから、市場の後押しもあっての倒産件数減少である事も否めません。一年や二年で結論付けてしまうのも早計のような気がします。 桃栗三年柿八年。本当に効果が現れてくるのは、やはり3年目以降。これからが勝負の時期ではないでしょうか。
 

 では、実際に、リスケジュールを実行している企業の社長さんたちは、金融円滑化法とどう向き合っているのでしょうか? 次回は、TDBが実施した「金融円滑化法に対する企業の意識調査」から見えてくる、円滑化法利用の実態について見て行きたいと思います。
 

以下、続きの予定

第二回目:町の社長さんたちは金融円滑化法と、どう向き合ってきたか。
第三回目:金融機関の思惑とは?
第四回目:信用補完制度って何?
第五回目:もしかしたら、訪れていたかもしれない「大倒産時代」

お楽しみに。

一課 : 加藤

  
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