平成の徳政令『中小企業金融円滑化法』再延長は
             単なる延命措置か最後のチャンスか ~ 第三回

「このまま円滑化法が終了した場合、御行はどういうスタンスをとるのでしょうか?」

円滑化法の再延長が決まる少し前。私は、ある地銀の担当者に聞きました。
ストレートすぎる質問だとは思いつつも、担当者の反応を伺うと、彼は遠くを見つめながら、こう言いました。

「さあ、まだ何も知らされていませんので・・・」

その翌週。
とある経済誌の中で見つけた記事。貸倒引当金積み増し増加率のランキング上位20行の中に、彼が所属する銀行名がありました。

“しっかりと積み増しているじゃありませんか” 私は苦笑いを隠しきれませんでした。

貸倒引当金を積み増すという事は、銀行にとっては、自行の利益をひっ迫させる上に、自己資本の低下を招くことになります。それでも、デフォルト(債務不履行)リスクや格付の引き下げに備えて引当金を積み増ししなければならなかった銀行の事情。円滑化法なき後の事態を想定すれば、それも止むなしかも知れません。
そして、再延長が決まった今、銀行は、さらに危機感を募らせています。
なぜなら、金融円滑化法は、良い効果ばかりをもたらしているわけではないからです。事業再建への道を進む企業がある一方で、恩恵を受けながらも、再建できずに、やむなく市場から退出せざるを得ない企業も出てきました。

倒産件数増加傾向に歯止めをかけた金融円滑化法ですが、その一方で、指摘され始めたのが、円滑化法利用企業の倒産件数。
帝国データバンク「第4回 中小企業金融円滑化法利用後倒産の動向調査」によると、2010年の終わりからその件数は増え始め、2011年第4四半期以降はその件数が急増。円滑化法施行1年目にあたる2010年が年間23件であったのに対し、2011年は194件にも上昇。昨年12月単月だけで比較すると、前年同月で2倍以上の増加です。もっとも、円滑化法利用企業の総数からすれば、わずかな件数ですが、これが「氷山の一角」に過ぎないのだとしたら・・・。
そんな懸念をよそに、氷山の一角は、少しずつその姿を現してきました。

“不良債権予備軍”

 水面下では、こう呼ばれています。

なぜ、そのような事が起こったのか。
問題にされている最も大きな要因は“モラルハザード” 。
いわゆる金融規律の低下と言われるもので、今回の延長に二の足を踏ませたのも、このモラルハザードでした。

「経営改善計画を一年以内に策定する見込みがあれば、条件変更の申し出を受けても格付を下げなくてよい」というのが金融円滑化法の要。しかし、その要である法律の効果が、かえって裏目に出てしまい、安易な条件変更が多発したのです。
その結果、“経営改善計画の見込み”という言葉が曖昧なものになり、その策定すらされないままに条件変更を繰り返している企業も存在していると言われています。

「ダメだったら何度でも条件変更をお願いして、銀行に助けてもらえばいい」

安易にそんな事を口にする経営者が増えているようです。

銀行に頭を下げて条件変更をお願いして、景気の動向に左右されながらも、必死で業績改善を目指している社長さんたちの姿を思えばこそ、こんな話を聞いてしまうと、とてもやるせない気持ちになります。

もちろん、行政も、そんな事態を黙って見ているわけではありません。
これまでは、中小企業の事業継続のための“延命措置”を推進してきた金融庁が、その考えを硬化させ始めたのです。
その取っ掛かりとも言えるのが、H23年4月に策定・公表された、「中小企業金融円滑化法に基づく監督指針」の中の文言。以下抜粋要約。

「事業の持続可能性が見込まれない債務者については、債務整理等を前提とした再起に向けた適切な助言や、自主廃業を選択する場合の、取引先対応等の円滑な処理への協力を、適切に実施する事が必要」

企業再生の道の選択肢の一つとして、「廃業」も視野に入れる

金融機関がコンサルティング機能を発揮するための具体的な役割として明記されたのです。
つまり、金融庁は、金融機関に対して、自主廃業する企業があれば、そのお手伝いをしなさいと公言しているのです。

そして、今、銀行が最も恐れている事態が、金融庁検査の「厳格化」
“不良債権予備軍”であっても格付を下げる。不良債権として区分する。金融庁の検査でそう判断されれば、銀行はそれに準じて、貸倒引当金を積み増すことになります。
30兆円規模になると言われているこの予備軍。すべてが不良債権として区分されるとは限りません。しかし、モラルハザードを引き起こすような事態が続く限り、金融庁の強硬な姿勢は変わらないでしょう。しかも、それは、表立ったところで行われるのではなく、目に見えぬ水面下で起っているのです。
銀行にとっても、厳しい局面であることは間違いありません。

社長さんも、銀行員も、政府の偉い人たちも、皆、それぞれの立場で、この厳しい局面を乗り切ろうとしているのです。

そして、次回は、政府系金融機関・日本政策金融公庫と保証協会のお話です。
この二つの機関が密接に結びつく関係とは…。お楽しみに!

  
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One thought on “金融庁と銀行――今、何が起きているのか

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