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「助けて下さい。お願いします!」

借入金の事で相談したいという申し出があり、初めて訪れた顧問先での出来事。挨拶が終わるや否や、社長さんが、その言葉を口にしたのです。

まるで、ドラマのようなシチュエーション。この仕事をして随分と経ちますが、こんな風に言われたのは初めてだった私は、驚きと戸惑いを隠せませんでした。

予め拝見していた決算書の財務状況は、あまり良くはありませんでした。

金融機関に提出するためにと作成された事業計画も、右肩上がり。「計画に対する売上の根拠は乏しい」と不安な気持ちを吐露する一方で、やはり、諦め切れないものがあったのでしょう。目の前に様々な製品サンプルを置き、自分のしている仕事がいかに素晴らしいものであるかを、熱く語ってくれました。

その姿を見ていると、胸が熱くなりました。事業に対する考え方が前向きで、とても真摯な方なのです。

これまでの苦労、これから先の不安。そして、家族の事。様々な思いを胸に秘めながらも、立ち直れるという希望を捨てていませんでした。

その事業意欲が裏付けとなったのでしょう。この社長さんは、企業として生き残る道を選択しました。

生き延びるためにすべきこと 『自社の強みと弱みを知る』

1.本業での利益確保。

目指すべきは、営業利益ベースでの黒字です。やはり、経常的に本業の利益(営業利益)が確保できなければ、企業として生き残っていけません。これは円滑化法終了後の金融機関の債務者区分にも、大きく影響する項目だと言われています。

日々、売上が大きく変動する中で、自社の利益変動リスクがどの程度あるのか。過去の損益計算書から導き出される“損益分岐点”を見極め、必要な利益を確保するためには、売上はいくら必要なのかを把握する必要があります。

そして、そこから導き出される目標値を、今後の経営方針に反映していく。将来予測や経営戦略の立案に大きく関わってくる項目です。

2.自社の財務諸表を冷静に分析してみましょう。

財務諸表には、自社の経営状態を知るための重要な情報が盛り込まれています。特に、貸借対照表は、会社の価値そのものを表しているものです。

様々な経営指標を使って、数値化された項目を分析する。すると、点数の高い項目、低い項目が一目瞭然です。三期分ぐらいの比較をすれば、現在までの推移も明確になり、より客観性の高い財務分析が可能になります。

いわば、会社の健康診断といったところでしょうか。良いところも、悪いところも分かります。

悪いところがあれば、治療を受けるのと同じように、財務体質改善のためには、弱点を補う必要があります。弱い部分に目をつぶらず、場合によっては、弱点を完全に攻略してしまわないと、将来の経営に大きな壁になります。

 

会社の息の根が、ある日突然止まる時。それは、借入金の多額如何を問わず起こります。黒字企業でも倒産する事があります。

短期的なお金の流れが悪いと、それは起こります。資金ショートと言われる現象です。流動性の高い資産と負債のバランスが悪い企業ほど、その危険性が高くなります。

企業も人間と同じです。何事も早期に発見し、早期に治療する必要があるのです。

つまり、自社の強みと弱みを知るということは、とるべき戦略に方向をつけると同時に、将来起こりえるリスクにも対応するということです。

 

そして『会社の将来計画をたてましょう』

ただやみくもに作成した、バラ色の将来計画ではいけません。金融機関や外部機関に認めてもらうためには、収益性や将来性に加えて、リスクや安全性も考慮した、より実現性の高い経営計画の策定が前提になります。

そして、作成した後が大事です。その計画の実施はもちろん、予測と実績の管理。計画値からの乖離があれば、その原因分析と修正と、進捗状況のフィードバックが求められています。

しかし、これら一連の作業は、社長さん一人でできるものではありません。

取引先や金融機関との連携も必要です。時にはコンサルティング機能などを有したブレーンを活用していく場面も出てくるでしょう。

そして、何よりも理解を得ないといけないのは、従業員をはじめとする社内の人たち。そして、家族。

時には、苦渋の決断を迫られる場面に遭遇するかも知れません。逆に、ひとりでは思いもつかなかったアイデアが出てくるかも知れません。

彼らの言葉に耳を傾けてみましょう。周囲の人たちが納得できなければ、事業の再建計画は何の意味も成しません。

社外の人の理解を得るためにも、まずは、内部の結束を固める。そして、覚悟を決めることです。

 

道は二つ。生き残るか、退出するか。

自分だけでなく、周りの人間にも、その決意を伝えるというのは大事な事です。そうやって差し伸べられた手は、私たちもしっかりと握り返します。決断するということは、そういう事なのです。
生き残るか。退出するか。どちらを選択するのかは、社長さん自身の決断力にかかっています。今からでも遅くはありません。時間切れになる前に、もう一度、考えて見て下さい。

考えることこそが、明日の会社をつくる礎になります。そして、明日の日本を支える強い企業への第一歩なのです。
《 あとがき 》

最後までご愛読いただき、ありがとうございました。

長きに渡りお送りしてきましたこのシリーズも、今回で、一旦、完結です。

その間にも、状況は目まぐるしく変化をして行きました。書く内容も、当初予定していたものと違う内容へと変化した箇所もありました。

それほど、現在の中小企業をとりまく金融事情は、変化が激しいということなのでしょう。

去る7月31日には、『日本再生戦略 ~フロンティアを拓き、「共創の国」へ~』が閣議決定されました。

その中にある中小企業戦略の重点施策として、「金融円滑化法期限到来後も踏まえた中小企業等への支援」という項目がありますが、円滑化法が延長しないという前提によって書かれたその施策の文面は、現時点ではその詳細までは書かれていません。

今後の情報には充分注意が必要ですが、ほんとうに今やるべきことは何かを真剣に考える時期であることは間違いありません。

これら一連の内容に関する記事については、今後も紹介していく予定です。それが新たなシリーズになるかどうかは別として、ですが。

また、円滑化法関連以外の話題での企画も検討中です。難しいことはさておき、もう少し、軽い読み物としての話題提供ができればよいなあと考えています。

では、また会う機会まで。

平成24年8月某日 神戸の某所にて
加藤 智弘

  
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