この手記は、とある湖の畔にある廃小屋で発見されたものである。
神戸のとある会計事務所に務めていた、Kという男性によるものだそうだが、この記事を掲載している今も、彼の行方はわかっていない。

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足元に横たわるゾンビが、突然、むくりと顔をあげた。恨めしそうな目をこちらに向け、のそり、のそりと起き上がってくる。新鮮な肉を求めるその眼差しは、生きている人間以上に、貪欲な輝きを放っている。

「そんな目で俺を見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!」

のそり、のそり・・・。
起き上がりかけたゾンビが、動きを止めた。体をクルリと反転させ、ブリッジの体勢に変わる。その瞬間、逆さ四足歩行のゾンビが、ものすごく素早い動きで私の眼前に迫ってきた。

「来るなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

スパイダーウォーク。映画「エクソシスト」で、リンダ・ブレアーが見せた、戦慄の四足歩行。
しかも、二足歩行の時よりも、はるかに素早い。
今更ながら、バイオハザードに侵食されたこの街に足を踏み入れてしまった事を後悔した。

 

久しぶりに訪れたUSJ。年間パスでも買って、ハロウィンイベントを楽しもう。
そんな軽い気持ちだった。
煩雑な手続きもなく、年間パスは簡単に入手できた。ゲートで顔認証を行い、入場する。
指定された場所で端末を操作し、個人情報の登録を済ませると、スタッフのお姉さんが、時間を確認する。

 「18時を過ぎました。外はゾンビが徘徊している頃です。お気を付けて!」と、満面の笑みで見送ってくれる。

 

呪われたトワイライトタイム。日が傾くと同時に、USJは様変わりする。
たちまちのうちに闇に覆われたパーク内には、どこからともなく不気味な唸り声が聞こえてくる。

その街の名はラクーンシティ。
そこは「バイオハザード」で有名な、惨劇の街。
“危険立入禁止”と書かれたそのエリア内では、屍者の行進が繰り広げられていた。襲われた人々の絶叫は、絶望感に溢れ、生者たちの生きる希望を打ち砕く。
街中が交戦状態に陥っているのか、いたるところから鳴り響く銃声と怒号。
街は、壊滅的状況を迎えている。

はず、だが……。

 

多くの一般人が、ここに立ち入っていた。屍者の行進どころか、生者のほうが多いではないか。

「みんな、早く逃げて!」
“バイオハザード”のヒロインたちが、銃を持って果敢に戦っている。だが、みんな、そんなのお構いなしだ。

脅かし疲れて地面に倒れ込むゾンビに群がる生者たち。みなが一様にスマホや携帯のシャッターを切りまくる。iPadのでかい画面を振りかざし、動画を撮影する強者までいる始末。
突然、飛び起きたゾンビに、悲鳴をあげながら蜘蛛の子を散らすように逃げる生者たち。
絶望感などどこにもない。歓喜に満ち溢れた悲鳴。
みんな、生きている喜びをかみしめているのだ。

恐ろしくも、楽しい悪夢の世界。かく言う私も、徘徊する化物たちに襲われながらも、あまりの楽しさに理性のネジが吹っ飛び、大笑いしながら、この状況を記録するべくシャッターを押し続けた。

 

ラクーンシティを抜けた私は、ニューヨークエリアに行列のできているレストランを発見した。
ハロウィンの時期にしか食べられない、限定メニューがあるのだそうだ。

「“ブレイン~t-ウィルス~”当店の人気メニューでございます!」

文字通り、t-ウィルスに感染した脳みそを食べさせるお店らしい。アンブレラ社の魔の手は、こんなところにまで及んでいるのだ。

限定と言われれば、誰もが飛びつきたくなるのは、生者の性なのか。試しに注文してみると、グロテスクなその盛り付けとは裏腹に、なかなかの美味。
食べたら…もれなくゾンビになれるそうだが、まだまだ人間でいたい私たちは、調合ハーブを頼んで解毒した。

ニューヨーク、サンフランシスコ。t-ウィルスの脅威はどこまでも広がっていた。ゾンビになってもまだ、生者を模する親子ゾンビ。しかし、彼らの目には、知性のようなものが伺い知れた。

街を抜け、ようやくたどり着いた湖畔のロッジ。パンを焼く甘い香りと、グツグツと煮えたぎるスープの音。ようやくまともな食事にありつけそうだ。
だが、目の前に出てきた食事を見て、私は背筋が凍りついた。

私が今いる場所。そこは、クリスタルレイク。今や都市伝説となっている、かの有名な「13日の金曜日」の舞台。まさか、実在していたとは…。
呪われた湖を模したかのような、どろどろのクラムチャウダーとホッケーマスク型のパン。私は、抗えぬ食欲と闘いながらも、何者かに導かれるように、その“悪夢のジェイソンチャウダーセット”を口にしてしまったのだ。

秒針が時を刻むかのような、かすかな息遣いとともに、じわりじわりと近づいてくる凶気。背中越しにもわかるその悪意に満ちた気配は、間違いなく彼のものだ。足元に落ちた影は、ニメートル近い巨漢のもの。
恐る恐る振り向いた私の視線の端に見えた、白いホッケーマスク。

ジェイソン・ボーヒーズ…。

気合一閃! 振り向いた私の目の前に、大鉈の切っ先が迫ってき…

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~おことわり~
この記事は、事実をもとに構成した。ほとんどがフィクションであり、実際にUSJハロウィーン・ホラー・ナイトで、迷子になる可能性はあっても、行方不明になることはありません。あしからず。

第一課 : 加藤智弘

  
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