神に時間を返す時
 

 都会の喧騒から幾筋か離れた路地裏。

そこで、ひっそりと営まれている一軒のバー「シャイロック」

 

シェイクスピアの「ヴェニスの商人」に登場する強欲の高利貸しの名前を

冠したその店は、地獄の淵を垣間見たものしか訪れることができないと言われている、いわくつきの店

である。嘘か誠か? それは、訪れたものにしかわからない。

 

今宵の訪問客はKという一人の男。

オープンしたての澄んだ空気の中に、全身黒づくめの男が先客にいる。

月のない闇夜のようなオーラを全身にまとったその男の名は、通称ヤミクロ。

その男の隣に腰掛けたKとヤミクロが、何やら話し込んでいる。

 
 

ヤミクロ:金貸したちは、長い間「時間」というものに
価値をつけて利潤を得ていた。キリスト教の世界では
「時間」とは“神からの贈り物”であると説くのだそうだ。
それゆえに神の所有物でもある「時間」に金利という
値段をつける所業は、悪であると考えられている。

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K:だから、金貸しは「地獄の道先案内人」と呼ばれるんですよ。

 


君は、どれだけの地獄を垣間見てきたのかね。

 


まあ、その話は追い追いと…。それよりも、時間と値段のお話。

 


その時間の値段がゼロ、あるいはマイナスとついたら・・・。


・・・・・・。


その時こそが、「神に時間を返す」時・・・。

 


確かにマイナス金利導入後の金融事情は大きく変わりましたよね。

 


すべては思惑通り、といったところかな。

 

マイナス金利に加えて、「フィンテック」のような新しい動きが急激に
活発化してきている。ITのノウハウを駆使したベンチャーやネット銀行系が
事業融資に積極的に乗り出してきている状況もただならないですね。

 

業界再編や銀行の収益を圧迫しかねないマイナス金利に加えて
異業種からの参入による脅威。

 

規制などの参入障壁に護られていた銀行経営も
穏やかな時代ではなくなってきたということですね。

 

かつては、護送船団方式によって護られていたから良かったものの。
その業界特有の旧態依然とした「守りの経営」が今も続いていて
それが自らの首を絞めることになるとはねえ。

 


ずいぶんと辛口ですね。

 

もとより住宅ローン金利は低金利だったものが、長期国債金利が
マイナスしたことで、その低下に拍車がかかっただけのこと。
そこに金融という概念を超えた、既存の銀行にはない新しい
サービスを提供する企業が躍進しはじめたということだ。

 

住宅ローンは借換需要が増加しています。
最近では名前を聞かない日はないとうぐらいのイオングループが、
店舗への来店客からの囲い込みに成功していますね。

 

もともと低金利融資で評判だったイオン銀行か。
住宅ローンはマイナス金利でさらに低金利になり、
しかも、住宅ローン契約者には、イオンでの買い物が
毎日5%オフになるという特典がもれなく付いてくる。

 


20日と30日だけじゃなくてね。

 

自社の経営資源を活かして、金融の枠組みを超えた
新たなサービスで付加価値を創造していく。しかもコストをかけずに。
時間に価値をつけるという発想を越えた新たな戦略。
これも一種の「時間の還元」と呼んでもいいのかもしれないね。

 

ネット通販系の参入も目立っていますね。
アマゾンが法人販売事業者向けの融資サービス「Amazon レンディング」を
スタートさせているし、ネット銀行の楽天は中小企業向けの事業融資に
参入したりと、ここ数年はかなり活発です。

 

低金利と低い手数料に加えて、その簡略化された審査手順や
融資実行までのスピードが定評になっている。
情報技術の進歩による情報伝達速度の飛躍的な向上によって、世の中は
常に変化し、また、その変化に即座に対応することが求められている。

 

そんなスピードの時代に即した事業形態の持ち主たちが、
異分野に市場を求めてやってくるのもわかる。
スピード化することによって時間を短縮する。スピードの経済への挑戦。
これも、ある種「時間の還元」への挑戦なのかもしれないな。

 

利便性の高いサービスの提供という点では、利用する側にとっては
とても魅力的なものに映るかもしれません。
しかし、預金残高や貸出残高から比較すると、規模の点では
まだまだ、メガバンクや地銀には対抗しきれていないのでは。

 

スケールメリット。それこそが既存の銀行の強みでもあるからね。
また、顧客からの信用やブランド力という点でも、まだまだ需要は高い。
規模の経済効果を活かすことで、まだまだ生き残る道はあるはずだ。

 

事業承継や転廃業・創業支援と言った既存の銀行でしかなしえない
ノウハウも持っているのだから、システマティックになった格付評価や
形式的な審査だけでなく、自行を取り巻く中小企業の環境を分析し、
もっと人間の目利きによる事業評価で質の高い与信で付加価値を
創造していくべきだと。そして、銀行が本来持っている「信用創造力」を高めていく。

 

時間とお金の価値の逆転現象が、これからの金融市場に大きな
変革をもたらしてくれることを期待してやまない。

 
 

監査業務第1課 加藤 智弘

  
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