カテゴリー シンプルコム 2008/10/05

sannenzaka.jpg短編集です。どうやらはじめて出した本がこれのようで、二十代のときに書いた話が三篇あるそうです。

それにしても、なんというやわらかくてきれいな文章でしょう。全編が美しい詩のように綴られていて、こんな表現をして世界を書き出せる人は、そういないんではないでしょうか。その一節から、
「送り梅雨の激しい雷の中でも平気でいた晴自慢の紫陽花(あじさい)は、最後の彩変えをして眩しい夏の光りの中に何やら言いたそうな顔でいた。この年の夏はいつもより永い梅雨のせいか雲が海を白く染めはじめたときはいきなり真夏の日射しになっていた。 」
どうですか。初夏の雰囲気が心の底に染み込んでくるような表現です。夏が始まるかわいた匂いさえも、伝わってきます。なんですか、これ。こんな文章、どうやったら書けるのでしょうか。勉強すればいいのでしょうか。数をこなせばいいのでしょうか。

うまいとか下手だとか、そんなものも飛び越えている気がします。こころの琴線に、ふれるのです。登場する人物たちを淡々と描写する、そのやわらかい視線。決して登場人物の運命を弄ぶことをしない、やさしい物語。またまた、僕は電車の中で読みながら泣いてしまいました。

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