トマス・Ｈ・クック「死の記憶」

犯罪小説ですが、謎解きミステリーというより、淡々と事実が進んでいくかたちです。主人公が自分の過去と向かい合うことで、父親の家族殺人に関する、とても切ない事実を発見していきます。やがては自分で、その現実までが絶望的なものになるまで、追い詰められていきますが、それは自分自身が望んでいるからなのです。はっきりいって暗い話で、否定的な言葉がそこかしこにあふれています。それでも読ませてしまうのは、筆者の描写に妥協がなく、登場人物の視点へと読者を引きずり込んでいく、強い文章力のせいでしょう。とても好きな作家です。