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監査一部門の加藤です。

 

日銀の緩和政策によって、長期金利はかつてない程の低金利。

しかも、貸せるお金がたくさんあるものですから、恐ろしく低金利で「えっ! そんなに借りられるの?」と、思わずのけぞるほど多額の運転資金の供給を提案してくる金融機関が増えてきました。

それも、プロパーで。

 

かつて金融円滑化法が活きていた時代は、返済猶予を受けつつコストダウンを計ったり、財務基盤を見直したりと必死で事業を立て直していました。
ほんの数年前の出来事なのですが、今の資金供給の状況をみていると、「そんな時代」が随分と昔のことのように思えてきます。

 

「是非、借りて下さい」という金融機関のスタンスは、とてもありがたいことではありますが、借り手側の本音はというと・・・。

 

実はそれほど多額な資金は必要でなく、むしろ余剰気味な借入金を減らしたり、何本もある借入金をまとめてキレイにしたいというところも決して少なくありません。

事業規模が以前ほど回復していないというのも、事業者が勇み足になる気持ちを止めているのでしょう。財務基盤を見直したことがきっかけで、経営全般が以前に比べてスリム化しており、多額の運転資金を投入することもなく、堅実に事業を回していける状態になっているというのが現状ではないでしょうか。

 

pics3416お金はたくさんあればそれに越したことはないが、必要とする運転資金のパイが大きくならない限り、つまりは売上上昇や事業拡大といった状況にならない限り、金融機関が提案するような多額の運転資金需要はないように思えるのです。

 

良い条件で貸せるようになったものの、貸出先が思うように増えない。かつてない低金利の時代だからこそ、たくさん貸さなければ金融機関は利ざやを稼げない。その需要と供給のアンバランスを埋めるために、金融機関は多額の融資とともに、金融機関の集約を提案してくるようになりました。

 
 

金融機関vs金融機関。放たれた第三の矢は、思わぬ戦いを招いてしまった!?

 

地元の金融機関であるA銀行は、とあるクライアントのX社に対し、「金利引き下げ」「複数ある債務をとりまとめる金融機関集約」「月々の返済額圧縮」を提案してきました。融資額はかつてないほどのボリューム。それを保証協会付きではなく、プロパーで貸し出すということでした。

必要以上に借りることもないX社の社長は、金利負担の減少と債務本数減少、様々な経営上のメリットを考慮し、A銀行からの提案を受け入れることにしました。

 

X社に足繁く通いはじめたA銀行の担当者は、その提案内容に対する絶対的な自信と、クライアントの将来性を強く推して稟議を通しました。

そのあまりにもスピーディな対応に、ちょっと驚きもしたのですが、融資も無事実行され、いざ返済という段になって、取りまとめられる側のB銀行とC銀行が完済に難色を示し、待ったをかけてきたのです。

 

早速、やって来たのはC銀行。

担当者は顔色を変えつつ、支店長を同伴しての訪問だったそうです。言われたのは

 

「そんなことをしたら、信用を無くしてどこの金融機関も取引してくれなくなりますよ!」

 

その一点張り。それで押し切るつもりだったのか。社長の頭の中には、その言葉しか印象に残らなかったということなのか。必死で止めようとするその勢いに、恐怖すら覚えたと言っていました。顔色を変えさせられたのは、いったいどっちなのでしょうか。

 
 

そして、私が月次訪問をしている時にやってきたのがB銀行。

担当者とその上司。何やら穏やかでない様子で事務所に入ってこられたのです。そして、主張されたのが、

 

「メインであるうちの残高シェアの割合が、大きく変わってしまう」

 

というものでした。

このタイミングで残高シェアを持ち出して、メインバンクを主張されるとは思ってもみませんでしたが、関西ではかなり力のある銀行です。シェアを取られて黙っているわけにはいかなかったのでしょう。何とか取り戻したいという気合は、ひしひしと伝わってきました。IMG_6323-300x197

しかし、気合だけで解決するものではありません。そして、B銀行も「何か考えますので時間を下さい」と言い、その日は帰っていかれたのです。

 

数日後B銀行が持ってきた提案は、自行のシェアを減らしたくないという意向が色濃く出た、極めて銀行よりの提案内容でした。

 
 

一連の流れからもわかるように、最終的には、A銀行の提案通りの金融機関集約にて帰結するわけですが、A銀行の担当者が、

 

「これ以上残高を増やすことなく、
 X社が最大限にメリットを享受できる方法を考えた末の提案でした」

 

というように、気合の入れ方はもちろんのこと、企業の将来を考えた末の提案だったことが、X社の社長にも響いたようです。

 
 

金融機関vs金融機関。シェアを巡っての、ちょっとした『鍔迫り合い』は、これからも頻発する可能性は少なくありません。

そして、これがエスカレートすると『しのぎを削る』ような熾烈な争いが起きるかもしれません。

放たれた第三の矢のスピードがあまりにも速すぎて、現場がついていけない。その弊害なのかもしれません。

 
 

金融庁が検査指針改定! 今後の中小企業向け融資は変わるのか。

 

借り手不足の貸し手過多。

こうした一連の動きに関連したことなのかわかりませんが、1月20日、金融庁が銀行検査の指針となる「金融検査マニュアル」の改定を行いました。

当日夜の日経新聞電子版によると、「一時的に債務超過に陥っている中小企業向けでも、収益回復の可能性が高ければ、運転資金の融資を正常な貸出債権と分類してよいと明らかにした」とあり、金融検査マニュアル上で、その具体的なケースを例示しました。

 

今回の改定で例示されたのは、住宅建材製造業者からホームセンター向けの組立式家具の製造・卸をしている業者です。詳しくは、金融庁HP「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」新旧対照表に追加された事例20(p62)をご参照ください。

事業活動の現場へ赴き、その場で見聞きした情報や証憑書類の確認などから、業績の回復可能性が高いと判断した場合は、正常債権に分類し運転資金(短期継続資金)を融資して良い、と明確にされています。

 

記事の後半「中小零細企業の資金ニーズは銀行が目利き力を発揮し、企業の実態を適切に判断することが重要だ」という金融庁長官の言葉にあるように、今回の改定が浸透すれば、債務超過でも業績回復基調や経営再建途上にある企業への融資可能性が広がります。

 

銀行同士がシェアを巡って、しのぎを削りながらの切磋琢磨もいいかもしれませんが、今回の改定が示すように、中小企業融資の原点に戻り、中小企業の将来を見据えた、より良い提案をしてくれるような存在であってほしいと願うばかりです。

 

監査業務第一部門 加藤 智弘

  
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