9fddec4a211943f1b9cdd593b1ca7077_s監査一部門の加藤です。
 

子供の頃から「どんなに仲の良い友達でも、人様の借金の連帯保証人にだけはなるな!」と、父親から言われ続けてきたおかげで、いらぬ借金を背負うこともなく今日まで生きている。

 

そして、借金をすることに対しては神経質だった父親も、金貸しの仕事をすることには反対しなかった。

しかし、いざお金を貸す仕事をしてみると、世間の眼差しが冷たいことは身にしみてよくわかった。

 
 

「借りる方も悪いが、貸す方も悪い」

 

こんな言葉を、よく耳にした。これが、日本人の借金に対する一般的な倫理観なのだろうか。

 

経営の方法論の一つに「無借金経営」というのがある。

文字通り、銀行などの金融機関からの借入など、他からの資金調達に頼らず、自己資金と内部留保によって会社を運営していることを表す言葉である。厳密に言えば、買掛金などの信用取引などが負債項目に計上されるため、負債0円といった完全なる無借金の状態は実現不可能に等しい。

 

しかし、自己資本比率が80%や90%と財務的にも非常に安定した基盤を持っている企業も多く、それは、経営者にとって一種のステータスでもあるため、「無借金経営」という言葉は、魅力的な響きを発しているのかもしれない。

 
 

かつて、トヨタ自動車やカルピスなどの大企業が無借金経営を実現していた時代があった。その影響から「無借金経営」という経営手法がもてはやされた時期もあったようだが、主流だったのは80年代までのことで、現在はそれほどではない。

 

そもそも、無借金経営を実現するためには、大きな資本力や、ある一定の規模の生産力が必要であり、収益力の高い企業でないとなかなか困難であるというのが概ねの見解のようである。

 

むしろ、昨今では、無借金経営を「石橋を叩いて渡る(あるいは「叩いても渡らない」)」ということわざに喩えたり、「冒険しない慎重な経営姿勢」という含みを持たせて使われることもあり、それを追求することは企業の成長を鈍化させるためナンセンスであるという論調もある。

 

もっとも、堅実な会社の持続と確実な収益を確保することも会社経営の方法論の一つであり、企業努力によって無借金経営体制を実現している企業があることを、私は否定しない。現に、借金を完済し、無借金で経営する企業が身近にあることも知っている。

 

では、本当に借金はしないほうが良いのであろうか。

 
 
 

“お金は借りないに越した事はない!”

 

事務所に入所した当初、そんな固定観念を持っていた私だか、多くの顧問先が借入金を運用しながら動いている状況を目の当たりにして、本当にお金は借りない方がいいのだろうか、という疑念が心の片隅でくすぶり始めた。

 

そんな折、事務所入所と同時に開催された研修で、大きな痛手を被ることになったのである。

 
 

MG経営戦略ゲーム。事務所に入った新人は必ずといっていいほど経験する登竜門的研修。

プレイヤーは会社の社長を演じ、仮想の市場空間で会社を動かし、マネジメント経験を疑似体験しながら、経営者に必須の知識である財務・会計の知識を習得するのが狙いのゲームである。

 

「しょせんはゲームなのだから」と、気軽に取り組んではみたものの、なかなかどうして、思うようにモノが作れず、思うようにモノが売れない。そして、頑ななまでに無借金というポリシーを貫いたがために、どんどんと赤字が膨らみ、たちまちのうちに資本欠損をおこし、挙げ句の果てには資金力の脆弱な、毎期赤字決算の惨憺たる経営状況に陥ってしまったのである。

 
 

当時の自分の知識や情報量、経験値の少なさなど、敗因を分析すればいろいろあるが、最大の要因は、

 

①無借金ということにこだわり過ぎたために、投資の機会を損失したこと。

②それによる、規模の経済による効果を活用できなかったこと。

 

大量生産によって単位当たりの平均費用が減少する「規模の経済」が確保できれば、高利益率の獲得による収益性アップが見込めたはずなのに、無借金経営に固執するあまり、適切な時期に適切な投資を行わず、その機会を失ってしまったのである。

 
 

企業が成長するには投資が必要不可欠。自分で出すか、人から借りるか。

 

投資を行うためには、自分でお金を出すか、人から借りるか。大別すると、この二つの調達手段がある。

 

ここで言う「自分で出す」とは自己資本を増やすということである。つまり、株式を発行して新たに資本を増強したり、事業から生まれた利益を源泉として、利益剰余金部分を積み上げていくことによって自社の純資産を潤沢にしていく。ちなみに、株式等の発行による資金調達を外部金融、利益の積み立てによる資金調達を内部金融と呼び、資金流出を伴わない減価償却費も内部金融に含まれている。

 

ここにあるお金は、会社が存続する限り(清算しない限り)返す必要のないお金であるため、これらを総称して自己資本と呼ぶ。

 

それに対し、「人から借りる」とは、銀行などの金融機関からの借入や、買掛金等の信用取引などによる資金調達のことである。これらは外部金融であり、いわゆる負債の項目に属し、会社の存続如何を問わず返済する義務が伴うため、他人資本と呼ばれている。

 

自己資本で調達するか、他人資本で調達するかは、個々の企業の財務状況を鑑みながら検討していくことになるが、概念としては共に「金融」であることに違いはない。

 
 

では、企業にとって「金融」とは何か。

 

それは、「企業価値を最大限に高めるための投資」であり、そのためには、企業価値の最大化を図るための効率的な資金調達という視点が必要不可欠になってくる。

この考え方を織り込んだ企業の財務活動が、コーポレート・ファイナンスと呼ばれる活動である。

 

このコーポレート・ファイナンスの考え方に基づけば、有利子負債、つまり、借金も企業の成長には必要なものであり、理論上は「是」とされている。

 

合理性を追求した会計論上の“無借金経営”が「是」なのか。

それとも、

ファイナンス理論上の“借金”が、「是」なのか。

 

両者の理論のせめぎ合いに「決着」はないように思えるが、次回は、この企業財務の論点から「借金」のメリットについて語ります。

 
 

監査業務第1課 加藤 智弘

  
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