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監査一部門の加藤です。

「人類の感情の中で、何よりも古く、何よりも強烈なのは恐怖である。
 その中で、最も古く、最も強烈なのが未知のものに対する恐怖である」  
by ハワード・フィリップ・ラヴクラフト

 

“怪談”というと夏の風物詩。日本ではそのように言われますが、はたしてそうなのでしょうか。 確かに、書店には数多の怪談本が並び、テレビでは心霊特集が組まれ、巷ではお化け屋敷が繁盛する。暑い夏を、全身がゾクッとする体験をしてクールダウン。それが狙いなのでしょう。 しかし、それはあくまでもこちら側、つまり生きている私たちの都合であって、あちら側にいる人々にとっては春夏秋冬など季節に関係なく、出るときには出る、出たい時に出るはず、なのである。

 

だから、僕は季節が外れようが、夏の間に買いだめしておいた“怪談噺”の本を晩夏から冬にかけてじっくりと読みふけり、移りゆく季節の中で、彼岸の向こう側にいる人々に思いを馳せてみるのである。

そんなわけで、今回、私がご紹介するのは、「この秋、おすすめの最恐怪談本」です。

 

『九十九怪談』 木原浩勝著

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著者の木原浩勝さんは、「怪談は、作家脳内での想像ではなくて、起こってしまった“事実”である」として、理論や常識では解明できない「不思議な話」を全国で蒐集している実話系怪談作家の第一人者です。

そんな作者ならではの信念にもとづいて書かれたこのシリーズ。実話系の怪談噺では、かなり安心して読めます。

余計な尾びれ背びれは付かず、体験者が見たまま感じたままの恐怖のエッセンスだけが抽出されて、原稿用紙数枚にまとめられている。怖いだけじゃなくて、泣ける話もあれば、笑える話もあって。

ストーリーテリングは、かくあるべき! のお手本のような書物である。

一冊に全99話分収録。百物語のお作法に倣って、100話目は読者自身に怪異が訪れる……とか。
現在、単行本では第九夜まで。全891話分の実話怪談噺が楽しめます。
文庫版では第六夜まで出ております。

 

『怪談新耳袋』 中山市朗・木原浩勝 共著

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九十九怪談の著者・木原浩勝氏と、これまた関西の怪談界では知らぬ人はいないであろうと言われる怪談のカリスマ・中山市朗氏の共著による一話完結の超短編怪談集。

こちらは、『九十九怪談』に先駆けて編纂された百物語形式の短篇集。全般的に短めの作品が多く、一粒一粒、怪談噺を噛み締めながら読む感じの、とっても味わい深い作品ばかり。

そして、この怪談集には、あまりにも怖くて、日中でも外を歩けなくなるぐらいのトラウマ必至の、最恐エピソードが連作形式で収録されている。

京都市内の某所にある「幽霊マンション」は、今も普通に人々が日常生活を営んでいる、ごく普通のマンション。なのに、そこで起きている現象は、にわかに信じがたいものばかり。

そして、兵庫県の某所の山奥にある「山の牧場」。理屈では説明のつかない、歪なその施設には、心霊的なものとは違う、得体の知れない何かが潜んでいるような。「場」そのものの存在自体が恐ろしい、奇妙な逸話の数々は、不快指数フルスロットル。

そして、関西で実際にあった幽霊ストーカー事件「ノブヒロさん」。憑きまとっているモノの正体は、住職ですら戦慄するほどの恐ろしいモノだった、などなど、朝日を浴びながらの通勤電車で読んでいても、気分が滅入ってしまう。

全10刊で、こちらは既に完結済み。全990話のショート怪談が楽しめます。990話を10刊で割ると…。一冊あたり99話収録。こちらも、百物語のお作法に倣っております。読後に起きる不可解な出来事や現象については、一切責任を持ちません。

 

『新耳袋殴り込み』シリーズ ギンティ小林著

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いい年した大人が真面目に心霊スポットを巡り、トンデモない不謹慎極まる挑発を行い、霊たちを怒らせて怪現象を映像に収めようという馬鹿馬鹿しい企画の実録もの。それをルポにまとめたのが本シリーズ。

タイトルにもあるように、先に紹介した『新耳袋』に収録されているエピソードゆかりの場所(「幽霊マンション」や「山の牧場」はもちろん)や、怪異に関わった人たちへ突撃取材を敢行しています。そこでいったい何が起こるのか。“殴り込みGメン”と称する男たちが、フェイクではない、ガチの怪異を捉えるべく、命懸けで挑んでいます。タイトルに偽りなしの威勢の良さ。

その癖、大の大人が思いっきり怖がってみたり。ほんと、馬鹿なことを真剣にやっているその姿に笑いを禁じ得ない反面、「これ、仕事だから」と言いつつ、心霊スポットで無邪気にはしゃぐ大人たちの姿を羨ましく思ってみたりもする。でも、絶対に真似はしませんけど。

こちらのシリーズも単行本が先行中。現在は加筆修正、そして、心霊スポットのその後を取材した新作エピソードが盛り込まれた文庫版でも読むことができます。

まるで、その場に居合わせているかのような、厭な感じを味わいたい。心霊スポット巡りを疑似体験したいという貴兄におすすめです。

 

 

稲川淳二氏曰く、

「怪談はもともと怖くて楽しいもの。怖さの中にほっとするような心地よさを含んでいるものです」と。

誰もが率先して、恐怖を味わいたいわけではありません。しかし、人類にとって最も強烈な“恐怖”という感情に、あえて手を触れようとするのも人間です。

未知のものに遭遇した恐怖と、そこから生還した時の妙な安堵感。それを疑似体験できる怪談には、「あー、私じゃなくってよかった」という、さらなる安心感と、それを他の人々と共有できる時間と空間がある。この感情の振れ幅の大きさこそが、稲川さんの言う「ほっとするような心地よさ」

つまり、恐怖を楽しむ醍醐味なのではないでしょうか。

  
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