「大本営が震えた日」吉村昭太平洋戦争はパールハーバー、日本軍によるハワイ諸島奇襲攻撃で始まるのですが、「奇襲」というからには、敵に悟られずに戦争の準備をしていくという苦労があったわけで、その辺のことを様々な史実から書いています。ちなみに、ちょうどこれを読んでいる時に映画の「パールハーバー」が封切られて話題になりました。女の子と行きたかったのですが、女の子はいませんでした。

日本軍が開戦を決定した12月8日に向けて、各部隊は着々と隠密行動をして、戦闘の準備をしていきます。真珠湾はもちろん、同時にタイやフィリピン、マレー半島、エトロフ島への同時進行、それをアメリカだけでなくイギリスやオランダ各国の目を盗んでやらなくてはいけなかったのです。
ひっそりと作戦を遂行する軍人たち。なにも知らされていない一般人の動揺。他国の偵察機に状況を悟られないように必死にふるまう、その緊張感。一触即発の開戦前夜を見事に書いています。

以下、印象的だった描写。

その日の朝、天寧の小学校では授業がはじまった直後、生徒たちが騒ぎ出した。妙な音が、海の方向からするというのだ。
(略)そのうちに生徒の一人が、
「船だ、船だ」
と、叫んだ。
見ると、たしかに大型の船が右手の沖合にみえ、単冠湾方向に進んできている。十一月に入ってから入港する船もなくなっていたので、生徒たちは喜んだ。
が、その時菊池は思わず短い叫び声をあげていた。海上を進んでくるのは、その船だけではなく背後に薄黒い大きな船影が浮び上がり、さらにその後にも同級程度の船の姿がつづいている。菊池は、生徒にかこまれて立ちすくんだ。薄曇りの海上を果てしなく船影があらわれ、その間には駆逐艦、巡洋艦の姿もつづいてくる。それは、沖合から不意に湧き出てきた不気味な生き物のようにも感じられた。
(略)艦船群は、湾内に投錨したままひっそりと並んでいるだけである。艦船上に人の影は見えるが、上陸する者は全くいない。
不気味なほどの静寂がしめ、艦船上には兵の動きがかすかにみえるだけであった。
十一月二十二日の日が没していった。

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