監査業務第1課の加藤です。

会社経営のお手本的経済小説「アキラとあきら」

やや食傷ぎみだった池井戸潤氏の小説群。もうそろそろ卒業かなと思っていた矢先、書店でなんとなく手にした氏の最新作「アキラとあきら」に思わずのめり込んでしまい、700頁近くある分厚い文庫本をわずか5日間で読み上げてしまうという、遅読の僕にしては最短記録で読破する快挙を成し遂げてしまいました。

 

小さな町工場の社長の息子として生まれた山崎瑛と、東海郵船という大手海運会社の御曹司である階堂彬。生まれた境遇も育った環境も全く異なるふたりの“あきら”が本書の主人公。

 

互いの人生において交わることのなさそうなふたりが、東京大学で同窓生となり、やがては同じ銀行マンとして社会の大海原へ出航していく。バブル経済全盛期とその崩壊。そして長い長い景気低迷という誰もが知る歴史的背景の中で、互いの運命に翻弄され、時には運命に抗いながらも、手を携えて一流のバンカーを目指していく姿を描いた壮大なドラマ。


ちなみに二人が入行するのは「産業中央銀行」という架空の都銀。かつて、一世を風靡した「半沢直樹」の舞台「東京中央銀行」の前身。そして、半沢直樹も原作では「産業中央銀行」の出身(ドラマでは違う設定でしたが)である。世代的にも同じ設定だろうから、もしかしたら、二人の“あきら”と半沢直樹にも何か接点があるのかもしれないなあと思いつつ。

 

さて、この作品の中で最も印象に残っている台詞があります。

「人のためにお金を貸せ。金のためにお金を貸したら、それはただの金貸しだ」

 

劇中、度々出てくるフレーズなのですが、銀行マンたるもの、人を見ずして何を見てお金を貸すのか、という、金融の本質を突いた名言だと思います。そして、この言葉の裏を返せば、
 
「金のためにお金を借りるのではなく、人となりに投資してもらえる経営者たれ」
とも受け取ることもできます。

 

人となりとは、経営者の人柄そのものでもありますが、それだけではありません。
自分の会社に対する誠実さや、事業に対して真摯に向き合っている度合い。得意先や取引先への誠意ある対応とひたむきな謙虚さ。従業員への感謝と思いやり。自社を取り巻く周辺社会への配慮。そして何よりも、自らが下す決断において自らの責任の下に行動ができるかどうか、です。

 

資金調達をする場面においても、お金の話は二の次。まずは、調達した資金によって何を実現したいのか、を伝えるべき。もっとも、それには強い根拠が必要ですし、何よりも実現しようとする結果に対してコミットメントをしない相手には、誰も投資したいと思いません。

 

「銀行なんて、ただの金貸しでしょ」と思うなかれ。
資金調達において、経営者としてなすべきことは何か。

 

相手を金貸しと思うなかれ」です。
お金が必要になれば銀行と連絡を取り、担当者を呼んで資金需要と希望金額について話をする。

 

ただ、相手を「お金を借りる先の1つ」としか捉えないうちは、相手もただの金貸しでしかありません。

 

資金調達や投資といった財務に関する話は、経営戦略の中の重要な要素の1つ。常日頃からそのことを念頭に置きながら事業を営む必要があります。

借りる側の認識次第で、相手はただの金貸しにもなるし、自社の事業に理解を示してくれる最良のビジネスパートナーになるやもしれないからです。

 

「銀行は晴れた日に傘を差し出し、雨の日に傘を取り上げていく」貸し渋りや貸し剝がしが横行した時代を皮肉った例えもありますが、今は昔のような受け身の時代ではなくなりました。金融機関に対して自社の事業を知ってもらうきっかけはいくらでもあります。関係省庁が提供するツールや国の施策を活用すれば、積極的にアピールができる時代になっているのです。

 

雨が降ろうが槍が降ろうが、はたまた、カンカンの日照りが続こうが、その日その時のその場所の状況に応じて雨傘や日傘を自らの手で差し出せる。その準備がいつでもできていることを自分の言葉で語ることが大事なのではないでしょうか。

 

監査業務第1課 加藤 智弘

  
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