冬の賞与支給シーズン到来!

監査業務一部門の加藤です。
 
経営者はこの時期、年末の何かと入り用の中、限られた資金でやりくりして賞与資金を捻出し、誰にいくら支給するかに頭を悩ませ、これまで頑張ってくれた成果に報いようとする。同じ支給するなら、働く人たちのモチベーションが高まって、会社に貢献してほしい。これからの頑張りに期待するのも経営者の本音としてあるでしょう。
しかし、人の心理とは、そう単純ではないようです。なぜなら、私たちは人間だから。
 
近い将来、AIやロボットが私たちになりかわって仕事をする時代がやってきますが、彼らのように合理的にものごとを判断しないのが人間。不合理とも思えるような選択をしてしまうのが人間。
人はお金のためだけに働いているのか?
お金にまつわる不思議な話を、経済学的な観点から見ていきたいと思います。
 
ここで面白い事例を紹介しましょう。
NHKの番組オイコノミア 「いくらで働く?賃金の経済学」で紹介されていたドイツでの実験です。
被験者は約140人。単純なデータ入力のアルバイトをしてもらい、5つのグループに、それぞれ以下の5つの方法でボーナスを支給しました。

A. 現金1,200円

B. 包装された水筒(1,200円相当)

C. 1,200円の値札つき水筒

D. 現金1,200円か、包装された水筒(1,200円相当)を選択

E. 人形の形に折った現金1,000円と、封筒の中に200円


はたして、この5つのグループの中で、どのボーナスをもらったグループが、もっとも生産性が高かったでしょうか?
 
正解は、E.人形の形に折った現金1,000円と、封筒の中に200円 でした。
続いて、B → D → C → A
同等価値相当のものを提供しているにもかかわらず、Eの「人形の形に折った現金1,000円と、封筒の中に200円」が一番高かったのは、手が込んでいて、送り主の気持ちがこもっているからという理由だそうです。

意外なのは、資金使途が自由な「現金」が一番生産性が低かったことでしょうか。
生産性が低い=モチベーションが低いということになります。
 
経済学者のジョージ・アカロフは、これを「贈与交換」と名付けました。

贈与=ギフト。それを交換する。つまり、ボーナスは雇い主からのプレゼントのようなものであり、それをもらった従業員は、そのお返しとして努力を返そうとする。その結果、生産性が上がるのだそうです。
雇い主と従業員という関係には労働供給の対価としての賃金という「金銭的なつながり」は切っても切れないものですが、人のモチベーションは、単に「金銭的つながり」だけでは高まらない。むしろ、生産性を低下させ、逆効果になることもありうるという事例でもあります。
 
人それぞれに働く理由やモチベーションが違います。金銭的つながりだけを強く求める者もいれば、自分をとりまく環境や社会とのつながりを重視する者もいる。「金銭的つながり」と「社会的つながり」。この2つの世界のどちらが正しいとかの問題ではなく、働く人が、仕事の動機づけや理由に、何を重視しているのかが影響するということです。
もっとも、現金をもらって喜ばない人はいないとは思いますが…。
 
売上原価や販売管理費の中でも多くの割合を占めている賃金や報酬。なのに単なる貨幣やモノとしての価値を提供するだけにとどまってしまうのはもったいないような気がします。受け取った側がそこにどんな価値を見出すのか。どんなことを思いながら仕事に挑むのか。そんなことを考えながら賞与の支給のしかたを考えてみるのはいかがでしょうか。

  
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