破線のマリス.jpg「マリス」とは、ジャーナリズムの専門用語で「悪意」という意味だそうです。報道する側が記事をつくるうえで、これを盛り込むと、報道される側にとても不利になるということですね。
主人公の瑤子は34歳のテレビ局編集マン。家庭も子供も投げ捨てて、仕事に没頭しています。前夫からは「不幸な女だ」と言われ、上司からは「いつか殺してやる」と呪われながらも、技術レベルの高さと、作品の圧倒的な説得力でニュース番組の製作に欠くことのできない存在になっています。そんな瑤子が織り込んだ「マリス」がきっかけで、郵政省の役人、麻生を破滅させてしまいます。この2人が軸となって、物語は展開していきます。
復讐に燃えて瑤子を執拗に狙う麻生と、疑惑のぬぐいきれない麻生を追う瑤子。ある弁護士の転落死と、謎の男。麻生は黒なのか白なのか?疑惑は深まるばかり、ジャーナリズムの現場でもがき続け、追い込まれていく瑤子は、やがて自分にとっての真実を追究していきます。では真実はどこにあるのか?

「ジャーナリズムは一本の川にたとえられると言ったジャーナリストがいたっけ。新聞は川の中流あたり、上流には雑誌がある。じゃあテレビはどのあたりだというと、最も川下にあって、しかも河口付近だから塩水も混じり込んでくる。低俗番組という名のゴミもたくさん浮かんでるってわけだ。だが川幅が上流より広いということは、たくさんの人が見てくれる…。真実っていう言葉は、川下で泳いでいる俺たちにとっては浮き輪なのかもしれない。溺れかけている人間は、空気が少なくて萎んでいる浮き輪でもすがってしまう。浮き輪に?まることができたとしても、いつも足をバタバタさせていないと、顔まで沈んで呼吸ができなくなる……」

作者はテレビ業界出身だそうで、とても説得力のある文章で書かれた、いい作品です。途中のホラーチックな描写とか、本当にどきどき。

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