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同著者の大作「海の都の物語」では、ヴェネチアの1000年にわたる盛衰を書ききりましたが、この本ではそのうちの数年間、栄華を誇ったビザンチン帝国が、新興トルコ帝国に踏み潰されていく部分を書いています。
まずは現場証人として、ビザンチンとトルコ皇帝の、それぞれの側近。たたきあげの軍人、海軍大将、医師や商人が紹介されていきます。その中には、聖職者もいて、東西教会の合同をすすめる立場と、ギリシア正教会の純潔を守る立場との、対極が示されます。
そして、それらの人物が残した記録をもとに、克明な描写でコンスタンティノープルという、ひとつの要塞が陥落していく様を書き出しています。

「あの街をください」
という、若きトルコ皇帝の野心からはじまった、コンスタンティノープル攻略。
それを守るために奔走する宗教家や、各国の商人たち。
大砲による攻城、という新テクノロジー。
ヴェネチアとジェノバの駆け引き。
うーん、硬派な読み物ですね。

そして、この著者独自ともいえる歴史観が、随所に示されます。それは、理念や幻想に流されない、現実的であり科学的な、一流の歴史観だと僕は思っています。
以下は本書「エピローグ」より。

しかし十九世紀に至って、それまでの四百年にわたるトルコの支配を脱して独立した、ギリシア人をはじめとするギリシア正教徒の根強さは、国を救うためならば宗教上の妥協はいたしかたないとしたイシドロスの考えよりも、信仰の純粋と統一を保つためには、国が滅びることさえ甘受するとしたゲオルギウスの考えのほうが、正しかったことを証明してはいないであろうか。狂信を拝する立場からすれば暗澹たる気持ちにならざるをえないが、理よりも、それを排した狂信のほうが、信仰の強さを保ちつづけるには有効である例が、あまりにも多いのも事実なのである。

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