praha.jpg解説に「国際ラブ・ロマン」と銘打ってあるように、プラハを舞台にした日本人外交官と東ドイツ女性との恋愛物語です。

偶然知り合った男と女。日本人外交官と、東ドイツ(DDR)の美しい女。
しかも名前はカテリーナときたもんだ。美しく情熱的な禁断の恋。
「恋愛」というものから遠くはなれてしばらくになる僕のような人間には、たまに「きぃーっ、おまえら、ばか、離れろ、ばか」となるような場面もあるのですが、やはりこういうのは、胸に染み入ってくるものです。愛しているが故に離れなくてはいけない運命。あきらめていたら、ふたたび急接近し、さらに激しく燃え上がるふたりの恋心。じつにメロドラマ仕立てなのですが、泣けました。号泣。

登場人物たちの台詞が非常によく練られていて、とても迫力があります。特に、腐敗した共産主義に対するやりきれない思いをぶつける人物の言葉は、胸を打ちます。
社会主義に対する信頼、だが現実の腐敗した権力構造といったジレンマに悩んでいる当時のプラハ、東ドイツの人たちの素顔が見える気がします。

もうひとつ、この小説で優れているのは、プラハという街の四季折々の美しさです。
さすがに作者は、外交官として現地で暮らしていただけあって、古い街並みとそこに暮らす人々、そしてモルダウ(プルタバというのだそうな)川の流れが、非常に印象的に描かれています。
で、こんな街に住んでみたいという気になったあたりから、この街へのソ連軍侵攻が始まるわけです。

悲劇に終わった「プラハの春」となぞらえるように、主人公たちの恋愛も悲劇に終わります。国家という怪物が、人に対して牙を向くとき、個人のちからではどうしようもない流れに、人々は翻弄されるだけです。プラハが蹂躙されていくシーンは、僕の記憶にあるところで、中国の天安門広場の事件が重なりました。自由を謳うことが、それだけで悪とされる、その社会構造。
イデオロギーに人間が支配されてしまうという、そんな事態が愚かであるということ、それは今の人たちなら、みんな知っていることです。なんでそれに気づいたかというと、そのために多くの人の血が流れ、悲劇を体験してきたからです。それにはとにかく、歴史に学ぶという謙虚な姿勢が大事なのですが、世界の近代史はとくに複雑な様相をしていて、さらにすごいスピードでかたちを変えていくので、なかなか理解する前に忘れてしまうものです。

そして現在を思うのです。イデオロギーで人間同士が殺しあうことがなくなり、その代わりに宗教の違いで人々が憎しみあい、殺しあいます。これは21世紀の問題であり、やがては貧困による憎しみあい、資本主義と人間の本質との戦いといった風に、世の中はかたちを変えていくと思います。

それでも、僕はたったの10年前の、ベルリンの壁崩壊、ソビエト連邦の消滅といった、当時はどんな偉い学者でも政治家でも、もしかすると神様でも予想しなかったことが起こったということ、それが重要だと思います。人間は変われるし、社会だって変わっていく。で、それはきっといい方向へ変わっていくのだと、信じて疑わないのですが、楽観すぎるでしょうか。

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