みなさまこんにちは、社員税理士の光島です。

 

2016年8月30日、自民党の税制調査会の会長が「2017年の税制改正で配偶者控除の見直しに着手する」と方針を示しました。 http://mainichi.jp/articles/20160831/k00/00m/020/088000c

 

いわゆる「103万円の壁」が女性の働く機会を大幅に制限しているのではないか?という議論です。

 

来年から配偶者控除が見直されるとのことで、いろいろ資料を検索していると以下のものがありました。

第12回 税制調査会(2014年11月7日)資料一覧
 http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2014/26zen12kai.html

 

この会合で議論されたうちのひとつが
【「働き方の選択に対して中立的な税制」を中心とした個人所得課税のあり方について】でした。

 

「働く人にとって税制は中立であるべきであり、税制上の扶養の範囲内に入るために給与収入を103万円前後とし労働の機会を奪うような税制を改正できないだろうか?」ということが議論されています。

 

今回は、この総会の中で議論された「働き方の選択に対して中立的な税制の構築をはじめとする個人所得課税改革に関する論点整理(第一次レポート)平成26年11月7日税制調査会」を見ながら、配偶者控除について考えていきたいと思います。

 

税金はあらゆる経済活動について回るもので、税制によって経済活動がゆがんだ形(中立性がない状態)になるのは、公正性の観点から良くないことであると考えられています。

 

しかし、企業の活動を活発にするために減税したり、逆に行き過ぎた企業の活動を少し制限するために増税をしたりすることは、国家運営の戦術の一つとして用いられてきたのも事実です。

 

「所得税においては昭和36 年(1961 年)に、~中略~、夫婦は相互扶助の関係にあって一方的に扶養している親族と異なる事情があることなどに鑑み、扶養控除から分離する形で配偶者控除が創設され、基礎控除、配偶者控除及び扶養控除という現行の基礎的な人的控除の体系が構築された。」と表現されています。

 

世は高度成長期の真っ只中で、正社員の終身雇用制が維持され、給料も年功序列の賃金体系となり、この正社員をパート労働者が支えるという労働構造になっていました。

 

「正社員のお父さんとパートのお母さんに子供が2人くらい」という家族がモデルとなり、税制が設計されていたわけです。

 

お母さんもパートに出て働いてね!その代わり、すこし多めに働いても、ある程度までは御主人の扶養の範囲に入れるように配偶者特別控除をつくって、御主人の所得税が極端に増えないようにするからね! といった感 じでしょうか。

 

しかし、「1990 年代以降、経済のグローバル化に伴う産業や労働市場の構造変化を背景に、従来の終身雇用・ 年功賃金を中核とする雇用システムが機能不全に陥った。」とあるように、税金を設計するためのモデルとなる家族が様変わりしました。

 

夫婦がともに働くことで家計を維持するといった家族や、単身の家族など、さまざまな家族のあり方が増えてきました。

 

労働人口がますます減少していく中で、これまで103万円前後で働いていた配偶者ももっと働けるような環境を作らないと深刻な労働力不足が発生します。

ここに「103万円の壁」が出てくるわけです。

 

どうしても働くことができない配偶者もおられますが、やはり、片方の配偶者が103万円前後の収入で家計を支えることの出来る家族については、それなりの所得層であり、共働き夫婦や単身世帯の家族からすると、これらの家族が適用することのできない配偶者控除(あるいは配偶者特別控除)は金持ちの優遇政策なのか、ということになってしまうでしょう。

 

さらに、配偶者控除だけではないと思うのですが、お給料の中の「家族手当等」。

これが所得税上の扶養家族の条件である給与収入で103万円に設定しているところが多く、ここにも女性の社会進出を阻害しているという印象を与える原因があるように思われます。

 

このような状況では、配偶者控除・配偶者特別控除は、収入の多い人が受けられる特典のようなものになってしまっている側面もあります

 

ここまで見ていると、今回の配偶者控除の改正の問題は「働き方の選択に対して中立的な税制」を目指すというよりは、「ある一定の所得階層以上の増税を狙ったもの」として見えてしまうのは私だけではないと思います。

 

しかし、どちらにしても超高齢化社会が進み、社会保障に対する予算がますます必要となり、若年者の人口が減少するなかで納税する人口も減少し、税の負担がますます重要視されるようになってきました。

 

税の負担が重くなるのは仕方のないことですが、ここはひとつ、公平に負担することで気持ちよく税金を払いたいという気持ちもあると思います。

 

必要であるなら負担するのは当然のことなので、先に進みたいと思います。

 

では、実際に配偶者控除見直す場合に、どのような選択肢が考えられているのでしょうか?

 

選択肢A-1
【 配偶者控除・配偶者特別控除 全廃 】

もうこれは思考停止状態で、増税一本!って感じですね。

 

選択肢A-2
【 高所得者層のみ配偶者控除・配偶者特別控除 全廃 】

これは不公平感をなくす目的ではいいとは思いますが、働き方の選択に対して中立的な税制に対する解決策ではないような気がします。

 

選択肢B-1 
【 単身者の基礎控除が1名分であるので、夫婦の場合は2名分控除できるように調整する 】

これは、なかなかナイスなアイデアだと思います。ただし夫婦間で税率差がある場合には、より労働に対する抑制機能が働く可能性がありますね。 ただ、選択肢A-2よりも、より、公平だと思います。

 

選択肢B-2 
【 単身者の基礎控除が1名分であるので、夫婦の場合は2名分控除できるように調整する+基礎控除部分を税額控除する 】

ここまでくると、かなり税金のテクニカルな部分が出てきて説明がとても難しいのですが、簡単に言うと、選択肢B-2の税率差による労働抑制機能が働くことを緩和しつつ、一定額の税金を直接控除することで、軽減される税額は夫婦のお互いの収入にされることなく一定になるので、より働き方の選択に対して中立的である という議論です。

 

選択肢C
【 夫婦世帯を対象とする新たな控除を創設(配偶者の収入に依存しない定額控除) 】

これは、まったく違う考え方の政策をぶつけるという意味では、根本的な解決になるのかもしれません

 

税制は、あらゆることを考えて設計されるべきですが、配偶者控除ひとつを取り出して議論してもこれだけの選択肢が出てきます。現時点の税体系を維持しながら調整をする税制改正というやり方は、もしかしたら時代 遅れなのかもしれません。

新しい時代にあった税制を模索すべきなのかもしれませんね。
どのような方法になるにせよ、平成29年の年末調整には導入されることになるでしょう。
詳しいことが決まりましたら、お知らせいたします。

では!

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