監査業務担当の内藤です。
本日は、国税不服審判所の裁決(平成20年6月19日、裁決事例集No.75、176頁)を参考に所得税の非課税通勤費の範囲について確認していこうと思います。
 
まず所得税法第9条第1項第5号では「給与所得を有する者で通勤するもの…がその通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとして通常の給与に加算して受ける通勤手当(これに類するものを含む。)のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるもの」は非課税所得であると規定しています。これを前提に事案を確認してみましょう。
 

事案の概要

人材派遣会社に勤める派遣社員であるAさんは、同社から支払われた給与のうち、Aさんの負担した自宅から派遣先までの通勤費相当額(約35万円)を非課税所得として、給与等の収入金額から除外し、再計算を行い、源泉所得税額の還付請求を行いました。
 
これに対し、税務署が当該通勤費相当額は非課税所得となる通勤費には該当しないとして更正処分を行ったことにより係争がおこりました。

 
【Aさんの主張】
①非課税所得である通勤手当が給与に含まれているという理由で課税されることは課税の公平性からみても妥当ではない。
②通勤手当が別途支給されない派遣労働者が個人負担する通勤費は給与を得るために必ず発生するものであり、住宅手当も支給されない派遣労働者は、職場から遠い家賃が安い地域に住まざるを得ないため一定の非課税措置が認められるべき。
 
【税務署の主張】
①所得税法第9条第1項第5号において非課税とされる「通常の給与に加算して受ける通勤手当」とは、通常の給与とは別に支給されている場合の通勤手当等を意味しており、Aさんの場合は通常の給与とは別に通勤手当等が支給されていないため、通勤費相当額は非課税所得とはならない。
 
これらの主張を受け、不服審判所はAさんの主張を全面的に退け、あくまでも法律の文言通り、「通勤手当」として通常の給与とは別に支給したものしか非課税所得として認められないと判断を下しています。
 
不服審判や裁判となると、法律に忠実に判断するため、このような判断になったと思いますが、「通勤手当」という名目だけで判断されることに納得がいかないAさんの主張も分からなくもないなと感じております。
 
Aさんは通勤費相当額を税務署に非課税と認めてもらうより、派遣会社に全額を給与ではなく一部通勤手当として、支給してもらえないか交渉ができれば良かったのではないか(実際はむずかしい交渉となるでしょうが、、、)と感じました。
 
最後に、現在(2021年時点)の通勤手当の限度額について確認しておきましょう。
マイカー等通勤、電車通勤とでそれぞれ非課税の規定があります。これらの規定は、あくまで非課税となる基準を示しているのであり、通勤距離が下記に当てはまるからといって給与を支払う会社が必ずその額を払わなくてはならないわけではありません。通勤手当を払うかどうかは会社の任意となります。
 
まずマイカーなどで通勤している方の非課税となる1カ月当たりの限度額表になります。このマイカーなどには自転車も含まれます。
 

【マイカーなどで通勤している人の非課税となる1か月当たりの限度額】

片道の通勤距離 1か月当たりの限度額
2キロメートル未満 (全額課税)
2キロメートル以上10キロメートル未満 4,200円
10キロメートル以上15キロメートル未満 7,100円
15キロメートル以上25キロメートル未満 12,900円
25キロメートル以上35キロメートル未満 18,700円
35キロメートル以上45キロメートル未満 24,400円
45キロメートル以上55キロメートル未満 28,000円
55キロメートル以上 31,600円

(出典:国税庁HP  https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2585.htm
 
次に、電車・バス通勤の方は1カ月当たり15万円を限度として、最も経済的かつ合理的な経路及び方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額となります。新幹線も含まれますが、グリーン料金は含まれません。
 
これらの規定の限度額を超えると課税される給与となりますので、通勤手当を支給されている事業主・法人の方は再度確認をお願い致します。

  
コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください


Copyright(c) 2024 FARM Consulting Group All Rights Reserved.