全5巻、話題作として本屋さんに平積みにされているので、目にする方も多いと思います。お話は、ある航空会社(国民航空となっていますが、まあ日本航空のことだわな)の社員が、労働組合の委員長になってから、会社のえらい人たちに目をつけられてアフリカとかに左遷させられて、10年も僻地をたらいまわしにされていびられながらもがんばるという、まあそんなお話です。半官半民の会社にありがちな行政との癒着、利権をめぐる人間の醜い争いなどが書いてあります。
長くて読みごたえは確かにあるのですが、小説として書いているのに、なんかスカッとしない中途半端な読み物という感想をもちました。主人公はいっつもいびられて、正直者は損をして、で、悪い人間はやりたい放題。最後まで救いのない(まあ、実話がもとだからしょうがないんだろうけど)ストーリーですね。

ただその中で、この「御巣鷹山篇」と題された3巻目だけは、心にしみた作品でした。

日航機墜落の事故に取材して、遺族はもちろん、そこに関わったすべての人たちのドキュメントといっていいでしょう。小説というかたちをとっていますが、作者の「御巣鷹山事故をこのまま風化させてはならない」という、作家としての執念が感じられます。あんな事故いまさら、という方には、一読をお勧めします。3巻だけでいいので。

遺体は飛び散り、焼け焦げ、酸鼻をきわめる事故現場の様子。
山深い現場で、懸命に捜索に当たる調査官、警官たち。染み付いた死臭に悩ませられながらも、ばらばらの遺体を人間のかたちにつないでいく医者たち。
遺体のすべてを見つけるために、何度も山に登り、何度も遺体安置所の棺をあけてまわる遺族たち。
死、死また死の地獄絵図です。520人もの人が、あっという間に死んでしまった。誰が悪いのでしょう?

絶望の淵に落とされた遺族が、食ってかかる相手は「お世話係」である主人公たちです。お世話係は「人殺し」となじられ、謝っても水をかけられ、土下座させられ、神経がまいって自殺する人間もいます。誰が悪いのでもない、良心の呵責も十分に受けている。でもやり場のない怒りは、どこかに向けられる。事故機を整備した整備士たちも、日ごと悪夢にうなされる。本当にやるせない思いになりました。
会社のえらい人たちは、マスコミの前ではお墓参りなんかをしますが、結局は官僚主義で、時間がたつのを待つだけです。機長やスッチー、整備士や地上勤務の社員、すべて現場の人間は、真剣に仕事に取り組んでいるのに、いつも貧乏くじをひくのは、現場の人間なのですね。
やがて保証金の交渉も始まり、遺族たちも否応なしに「カネ」の支配する世界へ巻き込まれていきます。日本の場合、訴訟とかすると損なので、示談ということになります。日本の法律は、被害者に厳しいのです。遺族を納得させるテクニックなんかもあって、これもまた、やるせない。

繰り返しますが、小説全体は別にして、本当に心に残る作品です。すべての出来事から目をそむけず、書ききった作者の根性を褒めるべきでしょうね。

 

追記:山崎豊子インタビュー「沈まぬ太陽を心に持って」
労組系のページですが、特集されてました。
http://www.kokko-net.org/kokkororen/s1034.htm#7

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