監査業務担当の内藤です。
本日は、国税不服審判所の裁決(平成13年3月30日、裁決事例集No.61、129頁)を参考に、家事関連費等の必要経費不算入について一部要約して確認していこうと思います。
 


事案の概要
歯科診療所を営む歯科医師Aの支出した諸会費等の額が、事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入されるか否か、を争点とする事案である。
 
【歯科医師Aの主張】

1.諸会費

(ⅰ)K歯科大学同窓会、及びそのL市地区の同窓会であるH会の会費、並びにM歯科大学校友会の会費は、これらの会が開業歯科医師にとって業界情報収集の場あるいは交際の場であることから、業務の遂行上必要な絶対不可欠の経費である。

(ⅱ)日本医師会等への福祉共済負担金は、これらの共済が医師個人ではなく、歯科医業を営む上での扶助を図るためのものであるから、業務の遂行上必要な経費である。

(ⅲ)N歯連盟会費、県歯連盟会費及び日歯連盟会費は、これらの会から業務に関する情報を収集できるという効果があるため、業務の遂行上必要な経費である。

 
2.図書研究費(英会話研修費)

歯科医師Aは、歯周病専門医、指導医また研究者として国際的に活動しており、業務遂行のために必要不可欠なものである。米国歯周病学会等の英語を使用して運営される国際的な学会に参加することは、新知識、新技術の修得のために不可欠であり、そのためには専門的な英会話能力が必要となる。
また、当該費用については、過去数度にわたる税務調査においても同様の状況下で容認されており、原処分庁の処理には一貫性がない。

 
3.旅費交通費

上記2の英会話研修の講師に対して支払った交通費で、英会話研修に付随する経費であるから、必要経費の額に算入されるべきである。

 
【不服審判所判断】

1.諸会費

(ⅰ)同窓会の会費について
同窓会の活動が請求人の業務に直接関係するものに限定されていると認めることはできないし、その会費が 所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められない
 
歯科医師Aが同窓会に参加することにより、業界の情報収集、歯周病専門医としての広報活動ができることや、同僚医師から手術等の必要な患者の紹介を受けることもあるということから、結果として請求人の歯科診療の業務に何らかの利益をもたらすであろうことはあり得る。しかしながら、同窓会の活動目的からして、同窓生としての私的な立場で入会しているものと認めるのが相当であり、その会費について、 その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。

 

(ⅱ)共済負担金について
Q県歯科医師会の福祉共済規則によれば、共済負担金は、福祉共済年金制度の趣旨に基づいて各医師会が徴収しているもので、 医師個人の死亡時に支給される死亡給付金等の共済掛金的な性質の支出金であることが認められる。
 
歯科医師会福祉共済の給付には、死亡共済金、火災共済金、災害共済金、全盲共済金及び疾病共済金があり、診療所を指定物件としていることにより必要経費の額に算入することができる火災共済に係る共済負担金の額が含まれている。しかしながら、共済負担金の額は、これらの全給付を総合して決定され、また、共済の運営は一本化されているから、必要経費の額に算入することができる火災共済に係る共済負担金の額と家事費と認められる死亡共済等に係る共済負担金の額とに 明らかに区分することはできない
 
そうすると、共済負担金は家事関連費であると認められるが、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、 業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。

 

(ⅲ)連盟会費について
歯科医師政治連盟とは、歯科医師会からは独立した団体で、日本歯科医師政治連盟の規約及びこれに準じて作成されたQ県歯科医師政治連盟規約に基づき、歯科医師の業権の確保とその発展を図るため、歯科医療に理解ある政党又は公職の候補者に対し、政治的後援活動を行うことを目的とする政治団体であるので、連盟会費は、政党又は公職の候補者の後援のためのものと認められる。
そうすると、歯科医師Aが、連盟会費を支払うことにより、保険制度の改正等の情報の入手ができるとしても、 その会費が所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められず、仮に家事関連費であるとしても、その会費について、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。

 
2.図書研究費の英会話研修費について

歯科診療業務、特に歯周病に関する治療を行う上で、英会話の技能を有することは有用であり、その意味で請求人の業務との関連があるといえるものの、英会話能力の保持のために継続して研修を受けることが歯科診療の 業務の遂行上不可欠なものとまでは認められないし、平成8年から平成10年までの間、診療の上で英会話の能力を必要とする外国人患者の受診は平成9年の1名であり、外国人患者の来院や問い合わせにいつでも対応できるよう、長期に渡り継続して研修を受け、英会話能力を保持しておく必要があるということだけでは、歯科診療の業務の遂行上直接必要な費用とはいいがたい。
 
また、英会話研修費が家事関連費であるとしても、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上 直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできない。
なお、英会話研修費について、過去の税務調査において、必要経費に該当しないとの指摘を受けることなく、容認されてきたものであるから、それを変更してなされた本件各更正処分は不当である旨も主張するが、 過去の税務調査において是正が求められなかったからといって、当該英会話研修費が必要経費に該当しないことが明らかになった段階で是正を求めることは何ら不当なものとはいえない。

 
3.旅費交通費について

上記のとおり、英会話研修費は必要経費に算入することはできないのであるから、これに付随する旅費交通費についても、必要経費の額に算入することはできない。

 
<考察>
いかがでしたでしょうか、当たり前だと感じるところが多かったでしょうか。
同窓会の費用に関しては、同窓会において患者の紹介があったり、情報の交換を行っているという点では一部経費性も考えられると審判所も認めているものの同窓会の費用の主たる部分が業務遂行上必要でないとして否認されていることから、業務遂行上必要な部分が明確でなく、主たる部分が必要経費でない場合は否認されると考えられるでしょう。英会話研修費についても同様の理由が考えられます。
 
また、過去の調査において税務署から指摘がなかったとしても経費と認められるわけではないので注意が必要です。
 
個人事業において、業務遂行上必要な経費となるか否かは線引きが難しいものもあるかと思います。そんな時は弊社又は担当者にご連絡ください。
税務調査で痛い目に合わないよう、線引きをきっちりと行って申告をしていきましょう。

  
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