こんにちは、税理士の嶋崎です。
勤務時間内の怪我は、従業員だけでなく役員にも起こりうることです。従業員が勤務時間内に怪我をした場合は、いわゆる労災保険が下りることが知られていますが、役員がそうなった場合はどうなるのでしょうか。そこで今回は、事業主・役員が加入することができる労災保険について秋元先生に尋ねてみようと思います。それでは秋元先生よろしくお願いします。
 

よろしくお願いします。

先生、私のお客様なのですが、建設現場で怪我をして労災保険の受給をされた社長がいます。労災に加入していて助かったと話しておりました。社長・役員が加入できる労災保険がある事はなんとなく知っていますが、詳しく教えて下さい。

はい。そもそも労災保険は、労働基準法により「労働者」を対象にした保険です。会社は労働者を一人でも雇用する場合には、労災保険に加入する義務があります。労働者が仕事中に怪我等で仕事ができなければ、労災保険から治療費や休業補償等の給付を受けることができます。しかし事業主(会社の社長・個人事業主)や役員は労働基準法で「労働者」になりませんので、原則として労災保険の加入対象にはなりません。

労働者ではないので、あくまで例外的に加入できるという事ですか。

そうです。あくまで例外的な加入になります。

知り合いの個人事業主で、外注として建設業の現場で仕事をしている人がいます。先日会った時に、「一人親方労災」に加入したと言っていました。これも例外的に加入できる労災保険なのですか。

そうです。労働者に該当しない事業主、役員が例外的に加入できる労災保険制度を「労災保険特別加入制度」と言います。特別加入制度には以下の種類があります。

①中小事業主等の特別加入

中小事業主と認められる企業規模(業種により労働者数に制限あり)の社長・役員

※金融業、保険業、不動産業、小売業は50人以下
 卸売業、サービス業は100人以下
 上記以外の業種は300人以下

②一人親方等の特別加入

建設業で会社に雇用されずに自営業をされている方

③特定作業従事者の特別加入

会社に雇用されず個人タクシーや農家などの自営業をされている方

④海外派遣者の特別加入

日本の企業から海外支社等へ赴任する方

いろいろな種類がありますね。建設業だけの制度だと思っていました。

実際の加入者は大部分が建設業だと思います。建設業以外では、製造業の社長・役員が加入されるケースも多いです。

中小の製造業は社長自身が製造現場で作業をされる方が多いですよね。

そうです。身分は社長・役員ですが、従業員と一緒に現場作業をされている方が非常に多いです。日常的に現場作業をされている場合には労災保険に加入された方が良いかと思います。労災保険は治療費の支給や休業補償等の給付内容が健康保険に比べて充実しています。今回は時間の関係で給付内容の詳細は省略させて頂きます。

特別加入労災は、労働者が加入する労災と違う点はありますか。

はい。基本的な給付内容は同じですが、下記の点が大きく異なります。

①給付基礎日額(休業補償等の受給金額)を自分で選択できる

一般の労働者が労災で被災した場合は、被災時の給与額を基礎として給付基礎日額を計算して休業補償額が決まる。特別加入者は、自身が任意で給付基礎日額(3,500円~25,000円)を決めることができ、その保険料を支払う。給付基礎日額が高ければ保険料も高くなるが、補償内容も大きくなる。

②事務処理を労働保険事務組合に委託する必要がある

特別加入者が労災保険に加入する場合には、労働保険事務組合に事務処理を委宅する事が加入の条件となる。通常、労災保険の加入手続は労働基準監督署だが、特別加入者の場合は自身が労働基準監督署で労災の加入手続きはできない。労働保険事務組合の多くは商工会・商工会議所などが行っている。

先生、よくわかりました。休業補償額と保険料を選択できるのは良いですね。

ただし、給付基礎日額を低くする場合は注意が必要です。保険料は安くなりますが、休業補償としては不十分です。給付基礎日額が低くても治療費は全額無償ですので、治療費を労災保険でカバーして、民間の災害補償保険等にも同時に加入される方が良いかと思います。

実際に事故が起こった時に必要な補償がなければ意味がないですよね。先生、本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

《今日のまとめ》

① 事業主(会社の社長・個人事業主)や役員は労災保険に加入することができないが、例外的に特別加入制度の労災保険に加入することができる。

② 建設業だけでなく、他の業種でも加入することができる。

③ 一般の労災保険と異なり、特別加入制度の労災保険は、休業補償額・保険料を自身で選択できる。

④ 事務処理を労働保険事務組合に委託しなければ加入できない

  
コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください


Copyright(c) 2025 FARM Consulting Group All Rights Reserved.