(その後:さらに拡散をつづけるツクリ話)

前回のお話はこちら「福島は帰れ!と言われるディズニーランド」

1週間で1万件以上のアクセスがありました。
ほとんどの方が好意的な反応、意見をしてくれました。
長文にもかかわらず、しっかりと読み込んでくれたことに感謝します。

タイトルだけ見て「なんてヒドイ話だ!ディズニーランド許せん!」とリツイートされたりもしました。
まあ、そんなもんなのでしょうね。

紹介したツイートBは削除されることなく、まだ拡散を続けています(400件以上)。
この作者に、記事を読んでもらい、ツイートの削除を促したのですが、

@hidejiroo 読みました。記事の中でAのツイートを初めて知った。自分は北海道にいる身ですが実家が直接被災している、被災地に行って微力ながら長いスパンで支援活動をしていて少なからず他人事ではない、残念に思っている、とだけ伝えておきます。

というメッセージがきて、僕のアカウントはブロックされてしまいました。

「他人事ではない、残念に思っている」 → だから、デマでも拡散だ!だって福島の人かわいそうだもん。うるさいヤツはブロックだ!

これでいいのか?本当にいいのか?

ちなみに、ツイートBと酷似している内容のブログも紹介しておきます。
いろいろな話がくっついて、最終進化形となってる感じがわかると思います。
http://ninninnsoku.doorblog.jp/archives/3394534.html
(元ブログは削除されてます。後ろめたくて、ひっこめたのでしょう)

そして5月18日、NHKの堀潤というアナウンサーが、福島県を取材し、次のツイートをしました。

福島で取材中にとても悲しい話を聞きました。その方は震災後ようやく生活が少し落ち着いたので家族と一緒に首都圏にある遊園地に車で遊びに行きました。お子さんが楽しみにしていた場所です。家族で楽しく過ごし、駐車場に戻ると、車のガラス窓が全て割られていたそうです。誰がそんな酷いことを。。。
http://twitter.com/#!/nhk_HORIJUN/statuses/70836774603202561

例にもれず、すごい数が拡散しました。なにしろフォロワー5万人だもんね。
ていうか、今もまだ拡散中。なにしろNHK公式アカウントだもん。

前回のツイートと比べてみましょう。

ツイートA(5月2日)
[拡散希望]福島県の知り合いの方が、子供が外で遊べないから車でディズニーランドに連れて行きました。車に戻ったら「福島から出るな。」と落書きされてました。傷も付けられていました。福島県民は悪いの?放射能はうつらないよ!!そんなことするのは人間としておかしい。本当にショック。
(元ツイートは作者が削除)

ツイートB(5月13日)
母の友人が震災以降お子さんに何かしてやりたいと考えて、ディズニーランドに連れていったんだって。2ヶ月ぶりに家族で一緒に羽根を休めた後、さぁ帰ろうと駐車場に行くと車に「福島は帰れ」と落書きされていた。笑顔だったお子さんは一転して大泣きしたって。昨日の母からの電話での話。これが現実。
http://twitter.com/#!/yuyanoyuya/status/68863970118877184

ディズニーランド → 「首都圏の遊園地」
落書き → 「ガラス窓が全て割られていた」
という部分が違いますが、過激なバージョンになっています。

これも伝聞だけでしょう。NHKはウラもとらずに、デマを流してもいいようです。

この、ものすごく暴力的な事件については、

    どこの遊園地で起こったことなのか
    被害者は、被害届をどこの警察にだしたか
    または泣き寝入りして、どこで修理したのか
    堀潤さんは、その車(または被害の写真)を見たのか

ウラがとれている話ならば、その点が明確なはず。

@jishin_demaさんが質問してくれたら、堀潤さん本人からコメントがきました。

@jishin_dema ここでつぶやくの内容は当事者又はそのご家族などから私が直接聞いたものです。デマの問題ですが私も発信者である一方で情報に惑わされる側の1人でもあります。基本スタンスとして自分で確かめるか、自分で直接得た情報以外は信じないようにしています。
http://twitter.com/#!/nhk_HORIJUN/status/78808447616954368

・・・微妙ですね。冷静に考えて、いきなり「被害者本人」に出会えるものでしょうか? 

結局、「聞いただけの話」という感じです。ウラとりは一切していない。
人間は、自分が信じたいことを信じます。NHKのアナウンサーだからといって「自分が信じたから事実」ということではない。

この件に関しては、堀さんとDMでやりとりして、以下にまとめました。デマに尾ひれをつけるという、アナウンサーの業を感じます。

NHKアナウンサー・堀潤の功罪

 


(ウワサの真相)

「福島いじめ」「福島差別」そういう動きが世の中にあり、それがかたちとなっているのは事実です。

しかし、事実関係は確認されないまま、「ディズニーランド」などの尾ひれがつき、噂を拡散する人たちは、
「なんてヒドイことをするんだ!同じ人間とは思えない!僕は違うけどね
というあたりで落ち着き、自分の善意を疑うことをしません。

3月中から、「福島ナンバーはGSで給油拒否」などの話がありましたが、これは全国的にガソリンスタンドでの給油がマヒした時に、福島に限らず給油を拒否されたことが、原因だと思われます。

看板がでてた、という話もありましたが、これも確認されてません。
こんな時代に、なんで写真が1枚もネットに流れないのか?
ケータイにカメラついてないのか?

そして確実な被害例として挙げられるのが、4月7日のNHKニュースです。
http://logsoku.com/thread/hatsukari.2ch.net/news/1302184171/
(元記事は削除されているため、2chのスレです)

4月8日に福島県の災害対策本部会議があり、そこで「入店拒否」「落書き」などの報告が上がったようです。
これを契機に、「そうそう、おれの友達の知り合いもヤラレタ!」という話が多くなります。
マスコミが記事のネタとして、「聞いただけの話でも、ばんばん載せろ!」みたいになったのでは、と思われます。

4月8日に、以下の記事(産経ニュース)。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110408/dst11040814390051-n1.htm

4月の前半という時期はマスコミが「風評被害」という「ねた」を流行らせたのではないか、と思うのです。

そして4月21日発売の、週刊新潮には、「福島ナンバーは落書きされる」という記事が載ります。
http://www.shinchosha.co.jp/magazines/images/10/poster_l/20110421.jpg

こちらは記者の又聞き、つまり「ツクリ話」の可能性が高い。
「私の弟」「妹からメール」「妹の友達」・・・そんなんばっかり。
新聞は話のウラをとって記事にしますが、週刊誌はしないんです(ココが重要)。

ほかにも続々と、「車がやられた!」というハナシ。「遊園地」というオマケがついたもの。

「本当だったら、かわいそう」そんなモヤモヤ感しかない。



(まとめ:対等に支援するということ)

最後に、イタイ思い出話を。
被災者への「対等な支援」とはなにか、今も考えてしまいます。

同情と憐みから、被災者を支援するということ・・・阪神淡路大震災での、ある出来事を思い出すのです。
ボランティアでの出来事などは、こちらにまとめてあります。
「震災ボランティア テント村での100日間」

そこから、ひとつのエピソードを紹介します。

 

「かわいそうな被災者」

炊き出しをしたい、というボランティア団体が多すぎて、何件も断ったり、待ってもらったり、という状態になった。
そうこうしているうちに4月にはいって、ある団体が炊き出しにきた。

インドかぶれのフェミニズム系、といった感じの、主婦のボランティア団体である。
みな教養もあり、旦那はいい会社の、お金持ち奥様、といった感じである。
そして皆、目がうるうるしていた。
被災者を見ては涙ぐみ、炊き出しの準備をするのだった。

炊き出しの内容は、凝ったカレーと手作りクッキー。
もうこの頃には、避難所も落ち着いていたので、被災者の多くは仕事にでて普通の生活をしていた。
よって、テント村に残っているのはじいさん、ばあさんばかりであった。
スパイスを絶妙に使った(であろう)カレーは、複雑すぎる味で、あまり人気がなかった。
「せっかく来てもろたのに、悪いわ」と、無理矢理食うばあさんもいた。
食後に、クッキーとチャイ、である。気分はインド。これも結局、大量にあまることになる。

炊き出し後、団体の代表が僕を呼んで言った。相変わらず、目がうるうるしていた。
「被災者の方と、お話がしたいんですが、いいでしょうか?」うるうる。
震災のことをいろいろ聞いて、「話すことで楽になって欲しい」らしい。セラピーというやつか。
広場に、被災者たちが集まった。じいさん達も逃げ出し、ほとんどばあさんであった。
「地震後しばらくは、えらかったのー」
「そういや、寒かったのー」
そんな話が飛び出す。地震のことを忘れた、というわけではなく、生活が落ち着いてるので、それほど、深刻な話はでてこないのだ。春の日差しも、のどかである。
おばちゃん達は、みんな目をうるうるさせて、話を聞いていた。
しかし、どこか物足りない、そんな空気をプンプンさせていた。

そこでまた、代表の人に呼ばれ、僕は台所のほうへ連れて行かれた。
「みなさん、さぞご苦労なされたのねえ」うるうる。
「そうですね」
「でね・・・もっと苦労した、みたいな話、ないかしら?」
うるうる。あんな話じゃ物足りないの。
「はい?」
「あの、例えばね、親御さんを亡くされた、小さい子供とか、そういう子はいないの?」目が光る。
そういう人と、話をしたいらしい。
「いません」
僕は少し、爆発しそうになった。逃げ出して、テント裏でたばこを吸ってるおっちゃんのところへ行った。
「あいつら、好かん」
おっちゃんは言った。
「あいつら、俺らのことを、かわいそうや、思いたいだけなんや。かわいそうや、思ってる自分がかっこいいと思とるんや」
その通りだと思った。

そして、自分のことを考えた。自分だって、あのおばちゃんと、同じじゃないか。
寄付もした、心を痛めた、物資も送った。仕事を辞めてまで、困った人のために働こうと思った。
そして、「悲惨な現場」を見に来た。
「哀れな被災者」を見に来た。
「倒壊した建物や高速道路」を見たかった。
「かわいそうな人たち」を助けたかった。
そして、「もっとかわいそうな話」を聞きたかった。

「ごめんな。おとうさん、ごめんな」
気が付いたら僕は泣いていて、おっちゃんに謝っていた。
「ええんや、アンタはよくやってくれてるやんか」
「いや、僕もああいう人間と、一緒だ」
「ワシだって、立場が違ったら、ああなるか知らん。ええんや、お互い様や」

その日は昼間から、おっちゃんとビールを飲んだ。
ビールはおっちゃんのおごりだ。
僕は、被災者におごってもらうボランティアになっていた。

 

(文責)田辺秀司郎

ご意見等はツイッターでどうぞ @hidejiroo

 

(おまけ)有名な記事ですが→ 「3.11もブレなかった東京ディズニーランドの優先順位」日経ビジネス

 

 

 

コメント

One thought on “福島は帰れ!を拡散する人びと

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